「本の森」新版 絵はがきにされた少年

藤原 章生

276ページ

●柏艪舎(はくろしゃ)(税別1700円)

 

事実の一人歩きに警鐘

 

 新聞などで報じられるアフリカの姿といえば、「貧困」や「難民」「紛争の爪痕」、あるいは「感染症」などのキーワードで切り取られることが多い。だが、アフリカと一口に言っても、56カ国にも及び、総人口は約12億人に上る。広大な大地に生きる人々を果たして、そうした紋切り型の表現で描くのは適切だろうか。そんな問いを軸足に置きながら、著者が新聞社の特派員時代に過ごした南アフリカを舞台に描かれた本書は、11編の物語で構成されている。2005年に開高健ノンフィクション賞を受賞し、15年ぶりの今年、「新版」としてリニューアルされた。

 著者が南アフリカに赴任したのは今から四半世紀前の1995年。長らく続いたアパルトヘイト(人種隔離)が撤廃された直後で、また、ルワンダ大虐殺が起きた翌年のことだった。そうした時代背景ゆえ、テーマとしては差別や貧困が持ち上がってくるのだが、本書は必ずしも悲惨な一面だけにとどまらない、等身大の人々の姿が活写されていた。

 最初の物語は、94年に米国のピュリツァー賞を受賞した著名な写真「ハゲワシと少女」が題材だ。スーダン南部の大地に、やせ細った黒人の子どもが地面にうずくまり、その背後にハゲワシがハネをおさめてじっとしている。「飢餓」という言葉を連想させる決定的瞬間として絶賛されたが、同時に「なぜ少女を救わなかったのか」という批判にさらされ、撮影した米国人カメラマンは自殺した。

 これが一般的に知られている話だが、本書によると、その写真の背景には実は、全く別の世界が広がっていた。

 南アフリカの鉱山で働いた老鉱夫が登場する章では、「奴隷のように酷使された人生」を描きたいという著者の想定が、取材を進めるうちに打ち砕かれた。予定調和に収まらない老鉱夫の言葉に対し、「犠牲者」だとみなしていた先入観の落とし穴に、著者は気づかされる。

 こうしたエピソードの数々が明示しているのは、先入観やイメージが先行した報道の危うさである。もっといえば、報道する側の「意図」によって、事象はいかようにも切り取ることができ、その事実だけが一人歩きしてしまうことへの警鐘だ。

 私が長らく住んでいたフィリピンという国は、多くの日本人にとって「危ない国」というイメージを抱きがちだ。それは日本に伝わるフィリピンのニュースが、邦人殺害事件などネガティブな報道が多かったためである。しかし、フィリピンだけ治安が悪いわけではない。

 ベトナムの実習生問題はどうか。彼らは、日本の企業から奴隷のように酷使された存在だけなのか。その側面ばかりが強調されすぎていないか。

 SNSで真偽不明な情報やフェイクニュースが飛び交う今だからこそ、本書の底流にある問い掛けが、ずしりと胸に響く。

(ノンフィクションライター 水谷 竹秀)

 

(KyodoWeekly12月21日号から転載)

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