
ぼうぜ鯖すし(姫路市提供)
兵庫県姫路市の南西約18キロ、瀬戸内海東部の播磨灘に浮かぶ家島諸島は、東西26・7キロ、南北18・5キロにわたり大小40余りの島々で構成される諸島である。
このうち、人が住んでいる島は、家島、坊勢島(ぼうぜじま)、男鹿島(たんがじま)、西島の4島で、古くから花崗岩の採石、海運業、漁業などを生業(なりわい)としてきた島々である。
家島という地名は、神武天皇が瀬戸内海を航海中に立ち寄ったところ、港内が大変穏やかで、「波静かにして家の中にいるようである」といわれたことから名付けられたとされている。それ以来、瀬戸内海を往来する多くの船舶にとって、風待ち、潮待ちの港として重用されてきている。家島は家島諸島では最も人口が多く、約2700人が住んでいる。
次に人口が多い島が坊勢島(約2200人)であるが、その名前の由来は、比叡山西塔実相院の高僧覚円が配流された折に、覚円を慕った弟子が大勢島に移り住んだことにちなんでいるといわれている。坊勢島は全国でも有数の漁業が盛んな島であり、漁船登録数は1千隻近くにものぼっている。
男鹿島は、人口約40人の島であるが、島全体が花こう岩から成っており、石材搬出業を主産業としている。男鹿島という名前は、対岸の姫路市の飾磨地区付近に生息していた雌雄の鹿のうち、牡鹿が島に渡ってきたという伝承によるとされており、本土の飾磨地区側には、これに対応する妻鹿(めが)という地名が存在している。
もう一つの有人島である西島は、家島諸島では最も面積が大きいが、人口は2人と極めて少ない。男鹿島と同じく採石の島で、作業場の周辺には採石業者の家屋が点在している。この島には、以前「母と子の島」と呼ばれていたキャンプ場があり、現在も兵庫県立いえしま自然体験センターとして利用され、さまざまなイベントも行われている。
そこで、今回ご紹介したいのが、漁業の島、坊勢島の養殖サバ「ぼうぜ鯖」である。
播磨灘に回遊してきた小サバを漁獲し、大型の海上いけすで約半年から1年半かけて養殖したサバである。そのせいもあって、魚体がよく肥えた脂の乗ったサバであり、秋から冬にかけて旬を迎える。旬の時期に合わせて、毎年11月中旬にぼうぜ鯖まつりが開催されているが、コロナ禍の今年は、残念ながら中止となっている。
さて、この「ぼうぜ鯖」はどこで口にすることができるかというと、坊勢島にある「乱菊すし」という店で提供されている、新鮮なサバのしゃぶしゃぶが最も有名である。
また、坊勢漁業協同組合が対岸の妻鹿漁港内で運営している「姫路まえどれ市場」でも刺身やしゃぶしゃぶはもちろんのこと、家島土産として開発されたぼうぜ鯖すしも食することができる。
なお、ウェブサイトをご覧いただくと、ぼうぜ鯖だけでなく、華姫サワラ、白鷺ハモ、ぼうぜがになどなど、播磨灘の海産物のオンパレードに遭遇する幸運に恵まれる。
(日本離島センター 専務理事 小島 愛之助)
(KyodoWeekly12月14日号から転載)