制度のもろさが浮き彫りに コロナ禍の技能実習生問題

 労働力不足を背景に、外国人労働者は年々増えている。厚生労働省によると、2019年10月の外国人労働者数は過去最多の約166万人。中でも製造業、建設業、農業の分野は技能実習生の存在に負うところが大きい。しかし、パワハラや賃金不払いといった問題も。コロナ禍でのベトナム人実習生の実態をルポした。(編集部)

在日歴40年のフック会長。在日ベトナム人協会の会長はボランティアで、本業は人工呼吸器メーカーの社長だ

大使も緊急会合に参加

 

 11月3日夜、ブー・ホン・ナム駐日ベトナム大使を交え、在日ベトナム人約20人の緊急会合がビデオ会議ツール「Zoom」を使って開かれた。参加した一般社団法人「在日ベトナム人協会」のトラン・ゴック・フック会長(72)は、その時の様子をこう振り返った。

 「今回のベトナム人による犯罪のインパクトが大きすぎて、日本人に迷惑を掛けているから、何とかしないといけない。それで大使にも参加していただき、情報交換や対策を話し合いました」

 「犯罪」とは、食用目的で豚を違法に解体したとして、10月下旬から11月上旬にかけ、北関東のベトナム人技能実習生が相次いで逮捕された事件のことだ。

 解体現場となったアパートの浴室の写真は新聞やテレビで報じられ、SNSでも炎上した。会合はこの渦中に開かれ、同協会は、犯罪増加による日越関係への影響に懸念を示し、違法行為の根絶に向けて同胞に注意を呼び掛ける声明を発表した。

 一方で、フック会長は、個人的な意見としてこうも語る。

 「犯罪者を擁護するつもりはありませんが、実習生が置かれている状況にも理解を示してほしい。受け入れ先企業の経営がコロナの影響で傾き、失業した実習生たちは食べる物や住まいに困り、路頭に迷っています」

 11月10日には、東京都荒川区の風俗店で、就労資格がないのに働いていたとして実習生のベトナム人女性3人が逮捕された。

 警察の取り調べに対する女性たちの供述から、この背景には、コロナ禍で陥った生活苦があるとみられている。

大恩寺の本殿で実習生たちにお話するタム・チーさん

実習生の「駆け込み寺」

 

 埼玉県本庄市の山間にあるベトナム仏教寺院「大恩寺」には、コロナで生活に困った実習生や留学生たちが駆け込む。在日ベトナム人の支援を続ける尼僧、ティック・タム・チーさん(42)を頼って来るのだ。

 小春日和となった11月19日、大恩寺をのぞいてみると、実習生ら男女約20人が共同生活をしていた。

 実習期間中に劣悪な雇用環境から失踪した者、不当に解雇された者、実習期間を終えた帰国希望者…。さまざまな事情を抱えながらも、皆わきあいあいとしていた。

 タム・チーさんは、こうした実習生や留学生を、同寺院のほか都内や千葉県の4カ所で保護し、チャーター便でベトナムへ送り返すのを見届けてきた。その数は約400人。在日ベトナム大使館によると、今なお、約2万人以上が帰国を待って待機中だという。

 2日前に大恩寺に到着したばかりという女性のチャン・ティー・ハーさん(26)はこれまで、岐阜県の工場で金型加工の仕事を続け、今年7月に3年の実習期間を終えた。

 ところが、なかなかチャーター便に乗る機会を得られず、耐えかねて別の実習生と2人で成田空港へ向かった。

 「直接行ってもし席が空いていたら、お願いしようと思っていました。でも乗れなくて、人生終わりと思った。それで大恩寺を紹介され、電車やタクシーを乗り継いでここへ来ました」

 そう日本語で語るハーさんは、苦笑いを浮かべた。

 実習生の大半は、多額の借金を背負って来日する。ハーさんの場合は約100万円で、家賃や光熱費を引かれた月収10万円の中から8万円を送金し、すでに完済。以降もお金を送り続けたが、一方で、劣悪な雇用環境から完済前に退職し、頭を抱えている実習生もいる。

 昨年夏に来日したゴック・ヴァン・ロイさん(33)は、横浜の会社で左官の仕事に就いたものの、現場ではひどい目に遭った。日本人の職人にハンマーでヘルメットを小突かれ、蹴りも入れられた。90万円の借金返済のために我慢していたが、今年9月に解雇され、友達の家を転々とし、駅での野宿も挟んで大恩寺にたどり着いた。所持金は1000円しかなく、返済額は40万円ほど残っていた。

 「いやぁ、今大変です」

 と、まだおぼつかない日本語で困った表情を浮かべるロイさん。故郷には妻と子ども3人がいるが、借金を残して帰国するわけにはいかない。現在は近くにある寺院で清掃を行い、日当3000円を稼ぐ。解雇に伴って変更した特定活動ビザが間もなく切れるため、今後どうするか悩んでいる。

 「ベトナムに帰れない。日本で仕事したいです」

 暴言や暴行など、ロイさんと同じような状況に追い込まれ、失踪する者も少なくない。それが犯罪につながるケースもあるとして、タム・チーさんはこう力説する。

 「なぜ失踪してしまったのか。受け入れ先の企業を追及する必要があります。低賃金や暴力、あるいは物みたいに扱っていたから、実習生は我慢できなくて逃げたんです」

 駆け込み寺の現実は、実習制度の脆弱(ぜいじゃく)性を一層浮き彫りにしていた。

 

タム・チーさんの呼びかけで集まった救援物資

手数料が高額な理由

 

 技能実習制度は1993年、日本で学んだ技能や知識を母国へ持ち帰る技術移転を目的に始まった。だが、「技術移転」とは名ばかりで、実際は人手不足に悩む中小零細企業への労働力として駆り出されているのが実情だ。

 制度開始時は中国人が大半を占めていたが、ここ近年の中国の経済成長に伴う賃金上昇の影響で、ベトナムなどの新興国が新たな送り出し国として台頭してきた。

 日本で暮らすベトナム人は近年、実習生や留学生を中心に急増している。2019年末時点で、前年末から24・5%も増えて約41万人。このうち実習生はほぼ半数の22万人を占める。

 ベトナムで問題なのは、実習生が訪日するため、ベトナムの「送り出し機関」に支払う手数料の額だ。

 送り出し機関とは、実習生を募集し、日本の企業へ送り出す民間会社のことを指す。これに対し、日本側の受け入れ窓口は、商工会議所や事業協同組合など非営利の「監理団体」である。

 送り出し機関にとっては、実習生を多く受け入れてもらうほうが収益は増えるため、監理団体にあの手この手で営業をかけ、送り出し機関と監理団体の間に力関係が生まれる。

 この結果、監理団体に対する過剰な接待やキックバック(裏金)を支払うなどの「悪習」へとつながるのだ。ある送り出し機関のベトナム人男性はこう語った。

 「キックバックを払わないと次は実習生を取ってもらえない。もう付き合わないと監理団体から言われる。だから絶対に払う。お金は手渡し。実習生が日本に入国した後、その次の面接時に払う。領収書なんかありません」

 こうしたキックバックや接待費は送り出し側の負担だ。それらは回り回って実習生にしわよせが及ぶため、手数料が跳ね上がってしまうのだ。

 手数料は、ベトナム政府機関によって上限が3600ドル(約38万円)に定められている。しかし、私が取材した実習生たちによると、90万~100万円超と上限を大きく上回り、その実態は形骸化している。平均月収が約2万~3万円のベトナムでは大金だ。

実習生たちが携帯しているスーツケース

問われるべき責任

 

 訪日した実習生は当面、借金の返済が続く。

 もし、受け入れ先の企業に恵まれず、前述のようにパワハラや暴行被害、残業代未払いなどの事態に直面してしまっても、我慢せざるを得ない。コロナで退職を迫られ、借金が残っていれば、風俗に走る女性たちが現れるのも無理はないだろう。

 ただ、実習生の取材を続けて難しいと感じるのは、こうした過酷な状況に置かれるベトナム人が全体の何割に上るのか、その実態が見えにくいことだ。

 確かに被害者は少なくない。だがその過酷さばかりにフォーカスした報道が過熱すると、制度全体にネガティブなイメージが定着し、真面目に取り組む送り出し機関や監理団体にとっては迷惑でしかないだろう。

 日本でしっかり働き、借金を返済して貯金を持ち帰り、家を建てるなど故郷に錦を飾る実習生もいる。地方で人手不足に悩む中小企業にとっても、彼らの存在なくしてはやっていけないのだ。

 にもかかわらず、私が取材した実習生たちの一部は、企業から切り捨てられ、本来は保護すべき立場にある監理団体、さらに監理団体を監督する日本の機関「外国人技能実習機構」までもが手を差し伸べているとは言い難い。

 だからコロナのような緊急事態が起きると、タム・チーさんが全国各地に食料を届けるなど、民間が支援に奔走しなければならないのだ。在日ベトナム人協会のフック会長は言う。

 「日本に来てくださいと実習生を呼び寄せておいて、コロナで経済状態が悪化したからといって『知りませんよ』というのは間違っています。連れてきた責任を持って本国へ返すべきです。それは何も監理団体だけでなく、送り出したベトナム側も同様に問われるべきです」

 コロナ感染の〝第3波〟の到来で、行き場を失う実習生や留学生はさらに続出する可能性があるとみられ、これ以上の「豚の解体」を阻止するためにも、実習生らの保護は喫緊の課題だ。(掲載写真はいずれも筆者撮影)

【筆者略歴】

ノンフィクションライター

水谷 竹秀(みずたに・たけひで)

1975年三重県生まれ。上智大外国語学部卒業後、カメラマン、フィリピンでの新聞記者などを経てノンフィクションライター。2011年「日本を捨てた男たち フィリピンに生きる『困窮邦人』」で開高健ノンフィクション賞受賞

 

(KyodoWeekly11月30日号から転載)

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