「風のたより~地域経済」豪雪地帯の米と水が育む米焼酎

米焼酎の原料となる酒米の豊作を喜ぶ「ねっか」設立メンバー。中央が脇坂斉弘さん(ねっか提供)

 「球磨(くま)焼酎」とも呼ばれる米焼酎の芳醇(ほうじゅん)さを知ったのは10年前、熊本支局に赴任してからだ。熊本・球磨地方特産の米焼酎を、福島県西端の山あいの地で造っていると聞き、蒸留所を訪ねた。

 新潟県境の只見町。面積の9割以上を山林が占め、冬季の積雪は3メートルを超える豪雪地帯だ。人口約4千人の高齢化率は46%に上る。国道から少し入った集落に、農家の空き家を改装した〝日本一小さな蒸留所〟という合同会社「ねっか」はあった。代表社員の脇坂斉弘さん(46)に案内され、蒸留器のある部屋に入ると、作業は最盛期を迎えていた。発酵した米の甘い香りが漂い、若い職人が大きなおけいっぱいのもろみをかき混ぜている。

 同社は、隣町の日本酒の酒蔵でこうじ作りや酵母作りの経験を積んで専務も務めた脇坂さんと、地元で農業法人を営み、米やトマトを生産する若手農家4人が2016年に立ち上げた。

 〝酒どころ福島〟だが、町には酒蔵がなく「手土産にする特産品がない」のが悩みだった。脇坂さんは14年、当時の町長から経験を見込まれ「町に酒蔵を造ってくれ」と頼まれた。ただ、日本酒の消費量がピーク時の3分の1に落ち込む中、税務署が新規の酒造免許を交付するのは絶望的だった。

 しかし〝裏技〟があった。「特産品しょうちゅう製造免許」。地元の特産品を主原料とした焼酎造りに免許を与える制度だ。農業法人の4人も、高齢化で耕作をやめる農家が増えていることに心を痛め「田を守るための酒蔵を」と酒米づくりに取り組んでいた。この5人が同制度を使った米焼酎造りを目的に「ねっか」を設立。社名はこの地域の方言で前向きな気持ちを表す「ねっかさすけねぇ(まったく問題ない)」から取った。

 厳しい条件をクリアして17年1月、免許が交付された。目指すのは吟醸酒のような華やかな香りの焼酎だ。

 蒸留手前のもろみ作りは酒蔵時代の経験があった脇坂さんだが、焼酎造りに合うもろみは未知の世界。米の配合や削り具合、こうじや酵母の選択…。試行錯誤を重ね、熊本の蒸留所を視察、各社の焼酎の香り成分を科学分析し、自社製品と比較した。同年4月に発売開始。英国の酒類競技会で入賞するなど好評価を得た。その後も改良を加え、創立4年の今年、県の研究施設と共同開発した酵母で仕込んだ焼酎は「完成形」と胸を張る。

 農閑期の冬に生産するため、若い人が通年で働く場ができた。また常温保存できる焼酎は、瓶に詰めた状態でも熟成が進むとされる。小学5年生に酒米の田植えや稲刈りを体験してもらい、その米で仕込んだ焼酎を10年近く熟成させ、成人式でプレゼントすることも計画する。

 只見町は間もなく深い雪に覆われる。そして春。雪解け水が米を育み、やがて極上の焼酎に生まれ変わる。

(共同通信福島支局長 山田 昌邦)

 

(KyodoWeekly11月23日号から転載)

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