「漫画の森」しなやかな生命力を堪能

 10月に「OL進化論」(秋月りす/講談社)の最新42巻が刊行された。連載開始は1989(平成元)年。制服姿の女性会社員が当たり前に「OL」と総称されていた時代だ。彼女らの日常を中心に描くほのぼの系4コマコメディーで、年月を経ても登場人物が年をとらないいわゆる「サザエさん」型作品。レギュラーメンバーは時代によって変化しながらも、20代なかばと思われる女性会社員4人組、その男性上司と先輩、彼らの家族に落ち着いている。

 本作が技ありなのは、年をとらないキャラを使いながら時流と巧みにつきあっている点だ。彼ら彼女らに古さではなく受け身さをそれとわからぬよう与え、時代にもまれる人ならではのおかしみを生み出している。またレギュラー以外の、名なしのキャラたちを自由に駆使することで時事ネタへのアクセスを容易にし、「35歳で独身で」という名シリーズを生んだ。現代のサイレントマジョリティー、高齢独身者あるあるを描いた作品群で、35歳独身が珍しくなくなった現在、シリーズ名こそ消えたが、その精神はあらゆるネタに姿を変え、奔放に出没している。

 思えばこのシリーズを境に、本作は穏やかに「社会をいじる」作品へとシフトしていった。「言葉にできないほど」と題した一編では(2007年刊行27巻収録)優しげな男性が「かいしょなし」と罵られちゃぶ台返しをするコマに続き、若い女性が「子供は最低2人産んでね」「育休?男はとれないよ」「(働くのはいいが)男より給料安いよ」「保育園?家事?自分の才覚でがんばってよ」などとたたみかけられ、「日本中の女がちゃぶ台バーン、それが少子化」とのせりふで締められる。少子化を扱った複数のネタの中で、この一編は「身もふたもなさ」において抜きん出ている。

 身もふたもないといえば「老成ティーンズ」(12年33巻)。「いい大学出て何になる」と愚痴る男子高校生に、クラスメートが一言。「マジメだけど目立たない、善良だけど人見知り。打たれ弱いし行動力も独創性もない。そんな僕が社会人になるには役に立つよ、学歴って」

 「リアルバージョン」(15年37巻)では、「自分にごほうび」と称してぜいたくな買い物をしようとする女性に「それは古い」と指摘した友人が、より説得力のあるバージョンを展開する。「明日はどうなるかわからない。地震や災害、デフレとかインフレとか。今確実に手に入る幸せがここにあるのに」

 印象深いのは「前世占いの謎」(09年29巻)。それぞれ「18世紀フランス貴族の娘」「古代中国皇帝の愛妾(あいしょう)」「ペルシャいちばんの踊り子」と占われた女性たちが、「前世占いって美女とお姫様ばっかり」と失笑する。すると仲間の1人が言うのだ。「みんな願ってたのかもよ。来世は富も権力もいらない、戦もうんざり。ただ平和にのんきに長生きしたいと。だから現代日本の私たちが転生人気ナンバー1」。この一編が書かれた09年は自民党大敗による政権交代が起きた年で、当然ながら安全保障関連法案はまだ成立していなかった。

 単行本未収録ながら、コロナウイルスネタにも挑戦している。ソーシャルディスタンスにテレビ会議、自粛生活を好奇心と感受性を武器にいじっている。窮屈な時代だといわれているが、バブル末期に産声をあげたキャラたちのしなやかな生命力を堪能できる自由はまだある。

(漫画愛好家 小岩 くぬぎ)

 

(KyodoWeekly11月16日号から転載)

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