「本の森」清水幾太郎

庄司 武史

●432ページ

●ミネルヴァ書房(税別3500円)

 

振り幅が激しい人物伝

 

 社会に出て任地に向かう列車の中で清水の本を読んで、えらく感心したことがある。その本「流言蜚語」を開くとボールペンで印をつけたところがたくさんある。うわさがなぜ生まれ、どうして広まっていくのか、その構造は何か、ということを書いた本だ。

 清水は生涯、約100冊もの本を書いたそうだが書店ではほとんど見かけない。だがこの本は「ちくま学芸文庫」に入り今でも読むことができる貴重な1冊だ。

 本書「清水幾太郎」はミネルヴァの「日本評伝選」の1冊として出版された。清水の盟友だった政治学者の丸山真男の著作は今でももてはやされる。だが、清水は「忘れられた思想家」として久しい。知っている読者はあまりいないだろう。いたとしても「論文の書き方」(岩波新書)の著者としてだろう。

 清水は思想の振り幅が激しかった人物だった。1960年の安保条約改定までは「進歩的文化人」として大活躍した。日本各地で反米運動を扇動して回ったといっても言い過ぎではない。絶頂期は60年安保時の国会への請願活動の勧めである。 しかし、安保条約の改定が終わると、長い沈黙のときを経て論壇に再登場する。思想は180度、転換していた。「戦後を疑う」「核の選択」という論文の表題だけで十分だろう。変節したと当時言われたものだが、なぜそうだったのかを、これまで知られなかった資料を使って記述している。ただ、転向した理由の分析が弱い印象を受ける。

 変節した清水に対する批判はかつての進歩的文化人の仲間からあった。最も激しかったのは、なんと論敵だった保守系評論家の福田恒存の論文だろう。

 40年前に「近代知識人の典型、清水幾太郎を論ず」を書く。月刊誌「中央公論」の巻頭を飾った長い論文だった。内容をかいつまんで言うと、清水が書いていることは既に誰かが言っていて新味はなく、自分が日の当たるところにいたいだけだと手厳しい。評伝とは銘を打ってないが、清水を論じた書籍「メディアと知識人―清水幾太郎の覇権と忘却」(中央公論新社)が8年前に出ている。社会学者の竹内洋の作品だ。著者である庄司も本文でこの本をたびたび引用し後書きでも触れている。評伝としても面白く読める。

 庄司が竹内の本から引用している清水の葬儀の場面が印象深い。かつての仲間、丸山は葬儀場の中に入るのを入り口でためらい、知人に促されて入る。が、途中で姿を消す。

 一方、福田は遺族の配慮で最前列に座る。夫人にあいさつした際、こう言われる。「福田さん、あなたは清水の戦前からのお友だちでした。清水がまちがいそうになると、かならず書いてくれました。福田さんありがとう」(敬称略)

(北風)

 

(KyodoWeekly11月16日号から転載)

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