オンラインで異文化交流を 海外の若者とシニアを結ぶ

 コロナ禍で、以前より人と話す機会が減ってしまった、という人も多いのではないだろうか。そんな中、日本語を学ぶ海外の若者と、日本のシニアをオンラインで結ぶ異文化交流アプリが注目されている。海外の若者は生きた日本語会話を、日本のシニアは日本語で異文化交流を楽しめる点が双方に支持されている。人との接触が減って孤立しがちな高齢者に、コミュニケーションを促す手段として、導入する地方自治体も出ている。

ビデオ通話アプリセイルで香港のレンニーさんと話す冨澤さん=千葉県柏市(筆者撮影)

 「こんにちは~。お元気でしたか? そちらの天気はいかがですか?」

 異文化交流アプリ「Sail(セイル)」を使い、自宅のパソコンで話すのは、千葉県柏市に住む元東京都職員、冨澤研二さん(70)。会話の相手は、香港の語学学校で日本語を学ぶ女性銀行員のレンニーさんだ。

 「こちらは、時々雨が降っています。ところで日本は今度、連休があるようですね?」

 「はい、よくご存じですね」

 「インターネットで知りました。冨澤さんはどこか出かけますか?」

 2人はすでに何回か会話していて、まるで友人同士のように話が弾んでいく。話題は、互いの国のコロナの感染状況などにも及び、あっという間に25分間の会話時間が終了した。

 2人が使っているアプリ、セイルは、千葉県柏市に本社がある「Helte(ヘルテ)」が提供する異文化交流サービス。セイルの名には「さあ、世界へ船出しよう」との意味が込められている。利用方法は、パソコンやスマホからセイルのアプリをダウンロードし、個人登録とアカウントを取得する。日本の利用者は無料のボランティア、海外の利用者は定額(月額14・9ドル)で何度でも利用できる。

 会話の予約時に、都合のよい日時を指定すると、日時以外にも日本語のレベル、趣味といったカテゴリーによって、相性の良い海外の利用者と自動的にマッチングされる。会話は1回25分間。最後に「談笑できた」「感動した」などの評価項目を記入し終了する。登録者数は国内外合わせて約1万人にのぼり、海外利用者はアジアを中心に欧州、北米、南米など104カ国(10月末現在)に広がっている。

 昨年10月から利用を始めた冨澤さんは、これまで20カ国以上の若者と会話したという。今はほぼ日課になった。「海外の若者と話すのは刺激になって楽しいし、自宅で好きな時間に会話できるのもいいですね」と楽しそう。相手のレンニーさんも、「日本の生活習慣など、教科書では学べないことをたくさん学べます」と笑顔をみせる。

ヘルテ社長の後藤さん=千葉県柏市

シニアから学ぶ方法

 

 セイルをつくった後藤学社長(28)は、大手IT企業を退職し、2016年にヘルテを創業した。社名のヘルテはデンマーク語で「夢や希望を与える人」の意味がある。後藤さんは学生時代に30カ国以上を放浪し、海外で日本語を学ぶ多くの若者がいると知った。

 後藤さん自身も、母親の知人である80歳のアメリカ人女性と、インターネットのビデオ通話で英語を学んだ経験があり、それがアプリを思いつくヒントになったという。「シニアの方は経験や知識が豊富。海外の若者は日本のシニアから、言語だけでなく日本の文化や社会についても学ぶことができる」と熱く語る。

 今後は、地方自治体やシニア団体との連携をさらに広げ、「交流を通してお互いの違いを理解し、互いに尊重し合えるような関係をもっと広めていけたら」と意気込む。

 コロナ禍で人と話す機会が減った高齢者に、オンラインコミュニケーションの楽しさを知ってもらおうと、セイルを導入する自治体も出てきた。

 神奈川県は「新しい生活様式におけるコミュニティー再生・活性化モデル事業」に同アプリを採択し、7月から藤沢市が実施主体となって運用を開始した。60代を中心に100人ほどがアプリを使い、海外の若者との交流を楽しんでいる。

 藤沢市地域包括ケアシステム推進室の石田大輔主査は「コロナによって、人との接触機会が減ってしまった影響は、特に高齢者に大きく表れている。会話を楽しみに、高齢者がスマホやパソコンを使ってみるきっかけにもなる」と期待する。神戸市も同様の事業を6月から始めている。

 この取り組みに研究者も注目している。東京大高齢社会総合研究機構と奈良女子大は、このような交流が高齢者の心理面にどんな影響を及ぼすか、利用者へのアンケートを通して共同研究を行っている。

 同機構の菅原育子特任講師は、「この交流アプリは、国だけでなく世代も超えてつながれる点が特徴。高齢者は若者を支えることに喜びを感じる」と評価した上で、「他者との交流が、高齢者の生きがいや幸福感、孤独感の低減にどう関わってくるのか、ひいては社会への関心や貢献活動にもつながっていくのではないか。それらを明らかにできたら」と話す。

 筆者も最近アプリの利用を始め、チリ、ペルー、タイなどさまざまな国の若者たちと出会った。日本の介護施設で働くため日本語を勉強中というミャンマーの女性や、技能実習生として日本にやって来るベトナムの若者もいた。仕事、旅行、アニメやドラマ、きっかけはさまざまだが皆、日本が好きで強い関心や憧れをもっている、と知った。 今、日本には多くの外国人が住み、私の街にも海外から来て働く若者たちがいる。セイルを始めて、私は彼らにとても親しみを感じるようになった。日本が好きで夢や希望を抱いてやって来る彼らが、この国にがっかりすることがないよう、日本がもっと多様性に寛容な社会であってほしいと願う。

【筆者略歴】

ジャーナリスト・日本記者クラブ会員(元東京新聞編集委員)

橋本 節夫 (はしもと・せつお)

1955年生まれ。82年、中日新聞社(東京新聞)入社。社会部、生活部デスクなどを経て、編集委員。現在はフリーで高齢者問題などを中心に執筆活動をしている 

 

(KyodoWeekly11月9日号から転載)

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