「映画の森」古関裕而と「モスラの歌」

 新型コロナウイルスの影響で、収録が一時中断していたNHK連続テレビ小説「エール」の放送が9月14日から再開された。このドラマで窪田正孝が演じている主人公・古山裕一のモデルは、さまざまなジャンルで名曲を残した作曲家の古関裕而。ここでは、映画音楽の作曲家としての古関について触れてみたい。

 

映画音楽の作曲家

 

 古関は、さまざまなジャンルの音楽を作曲したが、例えば、早稲田大学の「紺碧(こんぺき)の空」、慶応義塾大学の「我ぞ覇者」、阪神タイガースの「六甲おろし」、読売ジャイアンツの「闘魂こめて」といった応援歌や球団歌のほか、1964年の東京五輪の「オリンピック・マーチ」、NHKスポーツ中継のテーマ曲「スポーツショー行進曲」、全国高等学校野球選手権大会の大会歌「栄冠は君に輝く」といった、聴き手の気分を高揚させ、一体感を生じさせる行進曲が特に有名だ。それ故、マーチ王と呼ばれたアメリカの作曲家ジョン・フィリップ・スーザにちなみ「和製スーザ」の異名を取った。

 そんな古関には映画音楽の作曲家としての一面もある。代表作には、日本初の長編アニメーション映画といわれる「桃太郎 海の神兵」(44)、戦後のラジオドラマから発展し、主題歌「とんがり帽子」で知られる「鐘の鳴る丘」(三部作・48~49)、同じく同名主題歌もヒットした「君の名は」(三部作・53~54)、自身作曲の大ヒット曲をモチーフにして作られた「長崎の鐘」(50)などがあるが、異色作として特撮映画「モスラ」(61)の存在がある。

 東宝が、家族連れや女性でも楽しめる怪獣映画として企画した同作は、純文学の福永武彦、堀田善衛、中村真一郎による原案を基に、「ゴジラ」(54)や「空の大怪獣ラドン」(56)を手掛けた、監督・本多猪四郎、特技監督・円谷英二という名コンビによって製作された。

 悪徳ブローカーによって南海の孤島インファント島から連れ去られた双子の小美人を取り戻すため、守護神のモスラが東京に来襲。芋虫状の幼虫が東京タワーに繭を張り、巨大な翼を持つ成虫へと脱皮する、というファンタスティックなストーリーには、母性や平和への願いといったテーマが内包されていた。モスラの名はMOTH(ガ)に由来するが、MOTHER(母)の意味も含まれているという。

 それ故、見る者に恐怖や不気味さを感じさせた「ゴジラ」や「ラドン」を作曲した伊福部昭とは別種の、親しみやすさや優しさを持った音楽が求められ、歌謡曲やミュージカルにも名曲が多い古関が起用された。

 そして、アイヌの音楽に親しみ、土俗的、民族的で重厚な伊福部の音楽とは異質の、南国ムードや大衆性に満ちた古関の「モスラ」が生まれたのだが、そこには、戦時中、東南アジアや中国に慰問団の一員として派遣され、その土地の音楽に接した経験が大いに役立ったようだ。

 

平和への願い

 

 中でも、インファント島の石碑に書かれた碑文を、小美人に扮(ふん)した双子の人気歌手ザ・ピーナッツが歌った「モスラの歌」は、古関が作曲し、同作を製作した田中友幸と監督の本多、脚本の関沢新一が共同で作詞したものだが、一度聴いたら忘れられない名曲となった。

 「モスラヤ モスラ ドゥンガン カサクヤン インドゥムゥ ルスト ウィラードア ハンバ ハンバムヤン ランダ バンウンラダン トゥンジュカンラー カサクヤーンム」という謎の歌詞は、実はインドネシア語で、これを日本語に訳せば「モスラよ 永遠の生命 モスラよ 悲しき下僕の祈りに応えて 今こそよみがえれ 力強き生命を得て われらを守れ 平和を守れ 平和こそは永遠に続く繁栄の道」となる。

 古関は、戦時中に自らが作曲した「露営の歌」や「若鷲の歌(予科練の歌)」といった戦時歌謡、いわゆる軍歌で戦地に送られ、戦死した人たちに対して自責の念を抱き続けていたという。だからこそ、この曲には代表曲「長崎の鐘」にも通じる、鎮魂や平和への願いが込められていたと思われる。

 ちなみに、伊福部は「モスラ対ゴジラ」(64)で「聖なる泉」と「マハラモスラ」という“もう一つのモスラの歌”を作曲している。古関の「モスラの歌」と聴き比べてみると2人の曲想の違いが分かって興味深い。

 また、古関の死後に製作された「ゴジラVSモスラ」(92)では、伊福部が「モスラの歌」を編曲したが、映画公開後、古関の家族から伊福部のもとに「素晴らしい編曲をしていただいた」と感謝の電話があったという。

 時は流れ、ハリウッド映画「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」(2019)で音楽を担当したベア・マクレアリーは、劇中に伊福部の「ゴジラのメインテーマ」とともに、歌詞はないがオリジナルに忠実なメロディーで古関の「モスラの歌」も流した。不意打ちでこれを聴き、その美しいメロディーに思わず涙した往年の怪獣映画ファンも多いと聞く。恥ずかしながら筆者もその一人だ。そして、エンドクレジットには「yuji koseki」の名が、しっかりと刻まれていた。

 放送再開後の「エール」はいよいよ戦争の時代に突入するが、それを経た主人公の裕一が、平和への願いを込めて「モスラの歌」を作曲するエピソードも、ぜひ描いてほしいと思う。

 (映画ライター 田中 雄二)

 

(KyodoWeekly9月28日号から転載)

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