「映画の森」“音”が主役のドキュメンタリー映画

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ハリウッド発の大作や話題作の公開が軒並み延期になるなど、今映画界は厳しい状況に置かれている。そんな中、いぶし銀のような光を放つドキュメンタリー映画が公開された。どちらも主役は“音”だ。

 まずは、名作映画のフッテージ(素材映像)をふんだんに使いながら、ハリウッド映画の音響と、それに携わる人々にスポットを当てた「ようこそ映画音響の世界に」から。自身も女性音響スタッフとして活躍するミッジ・コスティンが監督している。

 劇中、「ザ・サークル・オブ・タレント=才能の輪」と名付けられたチャートが現れる。これは、映画音響の仕事が細かく分かれていることを示すものだ。

 「ボイス=声」:俳優の演技を現場で録音する。

 「ダイアログ・エディティング=編集」:不要な音を環境音に置き換える。

 「ADR=アフレコ」:俳優がせりふをスタジオで再録したものを口の動きに合わせて編集する。

 「サウンド・エフェクト=効果音」

 「SFX=特殊効果音」:実際は存在しない新たな音を作る。

 「フォーリー」:場面に合わせて動作音を録音する。

 「アンビエンス=環境音」:背後にある音の層を集め、リアリティーを出す。

 「ミュージック=音楽」

 「ミキシング」:全ての音をまとめる。

 本作は、これらの効果の実際を、フッテージを使いながら具体的に見せることで、改めて、映画音響の仕事は、プロの職人たちの集合体によるものだと知らしめる。本作に登場するスタッフの名前は、映画業界では有名だが、監督や俳優とは違い、一般的にはほとんど知られていない。どちらかと言えば地味な仕事だが、本作を見ると、彼らがいなければ映画製作が成り立たないことがよく分かって感動させられる。

 また、モノラルからステレオになったのは音楽業界が先で、例えば、ビートルズの「トゥモロー・ネバー・ノウズ」や「レボリューション9」、あるいはジョン・ケージの実験音楽や、ミュージックコンクレートが映画音響に多大な影響を与えたこと。

 バーブラ・ストライサンドの「スター誕生」(1976)がステレオ上映の道を開いたこと。ジョージ・ルーカスの「スター・ウォーズ」(77)やフランシス・フォード・コッポラの「地獄の黙示録」(79)が、映画音響の観点から見ても、いかにエポックなものであったのか、など、興味深い事実も知らされた。

 ただ、せっかくスティーブン・スピルバーグが証言者の1人として登場するのに、音が重要な役割を果たした「未知との遭遇」(77)について全く触れていないのがちょっと残念だった。

 ところで、本作を見ながら、以前取材した「爆音映画祭」のことを思い出した。これは、音楽ライブ用のサウンドシステムを使って映画を上映するもの。これだと音の圧力が違うし、普通の上映では聴こえない音が聴こえることもある。

 映画祭の主宰者は、見どころ(聴きどころ)として、戦争映画「プライベート・ライアン」(98)の、冒頭の激しい戦闘シーンで一瞬音が止まるところや、プロボクサー、ムハマド・アリの伝記映画「ALI アリ」(2001)の、スパーリングから急にカットが変わってサンドバッグをたたくところの音などを挙げた。

 その言葉を証明するかのように、本作を見ると、映画音響の仕事は、爆発や銃撃などの派手な音を表現するだけのものではない、ということがよく分かる。

 劇中で、ルーカスが映画音響について語った「音は感動を伝える。映画体験の半分は音だ」という一言が心に響いた。

 

映画館で見るべきもの

 

 続いて、「ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)」は、岩手県一関市で50年間営業を続ける「ジャズ喫茶ベイシー」のマスター菅原正二にスポットを当てたものだ。店の名前はジャズピアニストのカウント・ベイシーにあやかって付けられ、菅原のニックネームのSwiftyは、ベイシーが命名した。

 アナログレコードで“音”を再生することにこだわり続ける菅原は「レコードを演奏する」「スピーカーは楽器」だと語る。それ故、開店以来、使い続け、日々調整を重ねてきたJBLのオーディオシステムから生み出される“音”は、聴く者に、演奏者がその場に現れたかのような錯覚を起こさせるという。

 本作は、菅原へのインタビューを中心に、サックス奏者の渡辺貞夫、坂田明らのベイシーでの生演奏や、サックス奏者の阿部薫、ドラム奏者のエルビン・ジョーンズの生前の貴重なライブ映像、各界著名人のインタビューを収録している。中でも、指揮者の小澤征爾がジャズを熱く語るところと、“ナベサダ”が吹くチャールズ・チャップリン作曲の「スマイル」が見どころだ。

 最初は、正直なところ、菅原と周囲の人々の、ジャズ好き独特のキザなスタイルや過度のこだわりが少々鼻に付くところもあったのだが、最後は、50年間一つのことをやり続けた男の誇りに胸を打たれるまでに変化した。

 店側はレコードをかけ、客は鑑賞を主目的として来店するというジャズ喫茶は日本独自の文化だという。コロナ禍で、なくなった店もあるのかと思うと何とも寂しい気がする。

 今回は仕方なくオンライン試写で見たのだが、菅原がかける数々の名盤を、アナログ録音の伝説的名器「ナグラ」で生収録するなど、“音”にこだわった本作は、映画館で見るべきものだと感じた。(敬称略)

(映画ライター 田中 雄二)

 

(KyodoWeekly10月26日号から転載)

全国選抜小学生プログラミング大会
新型コロナ特集
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ