「音楽の森」意欲的な取り組みの記録

 今回は久々に2点のディスクをご紹介したい。ともに「『観客のいない音楽会』ライブ・レコーディング」と銘打たれた東京交響楽団の録音。2月末からほとんどのオーケストラ公演が中止される中、同楽団は3月8日と14日のミューザ川崎主催公演を無観客で開催し、インターネットでの無料配信(延べ20万人が視聴して話題を呼んだ)とCD収録を行った。それがこの2点である。

 まずは、大友直人の指揮で、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」、ラベルのピアノ協奏曲(ピアノ:黒沼香恋)、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」を演奏した、3月8日「名曲全集」の公演。なお本盤は4月にリリースされている。

 これは、こうしたフランス・プロを得意とする大友が、緻密な構築で格調高く表現した好演。「牧神~」では、柔らかくしなやかな響きで夢幻的な世界が表出され、ふくよかなフルートやきらめくハープも耳を喜ばせる。ピアノ協奏曲では、東京芸大在学中の新鋭・黒沼が、明確なタッチで真摯(しんし)なソロを披露。それに何より、難儀なソロが多いオーケストラの各奏者の名技が聴きものだ。「オルガン付き」は、精妙かつ生彩に富んだ演奏が展開され、速い場面の推進力や躍動感も光っている。

 もう1枚は、原田慶太楼の指揮で、モーツァルトの交響曲第35番「ハフナー」と、ピアノ協奏曲第13番(ピアノ:金子三勇士)を演奏した、3月14日「モーツァルト・マチネ」の公演。冒頭には東響メンバーによるフルート四重奏曲第3番が収録されている。

 原田はアメリカを拠点に実績を積んできた今年35歳の俊英。最近は日本での活躍も顕著で、2021年4月には東響の正指揮者に就任する。彼は自己の音楽を前面に打ち出しながら、楽曲の本質を生き生きと伝えるのが持ち味。「ハフナー」は、まさしく原田の表現意欲が漲(みなぎ)る濃厚かつ活力満点の演奏で、各楽章の性格の描き分けも素晴らしい。

 ピアノ協奏曲は、快速テンポの力感溢(あふ)れる進行の中で、強靭(きょうじん)な音を持つ金子のピアノがエネルギッシュに弾む。冒頭のフルート四重奏曲も、豊麗・明朗かつ優美なソロが魅力的な快演。ディスク全体でみると、室内楽曲、交響曲、協奏曲がそろった“モーツァルトの佳(よ)きエッセンス”ともなっている。

 いずれも音楽自体を楽しむに十分だが、ここは、意欲的な取り組みの記録である両ディスクを、苦境が続くオーケストラ界応援の意味も込めて推奨したい。

(音楽評論家 柴田 克彦)

 

(KyodoWeekly9月28日号から転載)

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