動き始めた「スローニュース」 取材者、エピソード縦横に語る

 スマホ全盛時代になって、ニュースはSNSなどを通じて断片的に流れる傾向がさらに強まってきた。これに対し、断片的になりがちな速報的なニュースではなく、あるテーマを深掘りしたニュースを「スローニュース」と呼ぶ。欧米では2015年ごろから盛んになってきたこの動きが、日本でも広がり始めた。

TOKYO SLOW NEWSの公式HP。過去の放送内容はネットで再視聴できるだけでなく、書き起こしのテキストでも読める

 代表格は、エフエム東京が手掛ける「TOKYO  SLOW  NEWS」だろう。今年4月の放送開始で、夜8時から同9時(月曜から木曜)という“ゴールデンタイム”。調査報道の異称でもあるスローニュースを全面に打ち出した定時放送は、テレビも含め日本初といってよい。

 番組を発案し軌道に乗せたのは、編成制作局専任局長報道・情報センター部長の石井育子氏だ。石井氏はその狙いを「ニュースのヘッドラインは誰でも知っています。でも、その経緯や背景は深く知らない。そこをラジオらしく『音と喋(しゃべ)り』で構成し、伝えられないか、と。そう発想しました」と語る。FMのリスナーといえば、音楽や肩の凝らない軽い話題、情報を好むであろうことは、想像に難くない。生のライブ感を重んじる、その層に向かってスローニュースはマッチしていくのか。石井氏は「FM局にとっても新しい挑戦でした」と話す。

 「TOKYO SLOW NEWS」の目玉は、番組の中核「SLOW NEWS Report」(木曜を除く)だろう。このコーナーは調査報道グループ「フロントラインプレス」の協力により、ゲストの「取材者」が日替わりで登場。MCの速水健朗氏と絶妙なトークを繰り広げる。取材過程で何を見て、何を感じたか。記事や映像では収まり切らなかったエピソードを縦横に語ってもらい、取材シーンが目に浮かぶようなイメージで問題点を浮き彫りにする手法だ。

 出演者も多彩である。各界に精通するジャーナリスト、ドキュメンタリー映画の制作者、写真家、地方メディア…。テーマもさまざまだ。「ウーバーイーツ配達員の労働問題」「災害時の避難所はなぜ変わらないのか」「選挙の楽しみ方」「北朝鮮のテレビ・スマホ事情」「雑居ビルから始まったゲーム会社、世界へ」「冤罪(えんざい)はこうやって作られる」「水中考古学のいま」など8月末時点で既に60回を超える。題材も幅広い。タックス・ヘイブンを使った各国首脳らの税金逃れに関する調査報道「パナマ文書」取材に関わった記者は、国際的な取材の舞台裏を映画のようなスリリングな展開で明かし、リスナーを引きつけた。

 「SLOW NEWS Report」には、地方の事情を深く、きちんと首都圏のリスナーに伝える役割もある。

 今夏に起きた熊本水害の「想定外」を報告した熊本日日新聞の高宗亮輔記者は「利便性の高い東京の方々には想像もつかない現実がある。その深掘りを首都圏の人に伝える絶好の機会だった」という。中日新聞の中堅記者や沖縄のフリージャーナリストら地方からの出演者も同じ意見を持っていた。ネット時代であっても、地方の出来事は首都圏や全国各地にきちんと伝わっているかどうかは疑わしいからだ。

 その点、リアルタイムでなくとも全国各地のラジオ番組を事後にも視聴できるスマホアプリradikoやAuDeeの存在も大きい。

 地方のスローニュース(調査報道)を首都圏や全国に伝える動きとしては、西日本新聞が始めた「あなたの特命取材班」もある。「これを調べてほしい」という読者のリクエストに応じて、記者が独自に取材し、成果を紙面で伝える試みだ。2018年1月に開始したところ反響はすさまじく、ホームページには何十本もの記事が並ぶ。「かんぽの不正販売」問題に火を付けたのも「あな特」だった。同様の試みは全国の地方紙に拡大し、現在では15紙が「オンデマンド調査報道」のネットワークを作っている。

 日本では、スローニュースの動きが胎動を始めたばかりだ。ニュース配信アプリの大手SmartNewsはスローニュースを支援する子会社「スローニュース社」を設立し、実際の支援活動にも着手している。グーグルもアジア太平洋地域での調査報道支援に乗り出してきた。先行きは見通せないにしても、スローニュースの拡大は日本でもトレンドになりつつあると言えるだろう。

【筆者略歴】

東京都市大メディア情報学部教授(ジャーナリズム論/調査報道論)

高田 昌幸 (たかだ・まさゆき)

1960年生まれ。北海道新聞記者などを経て、2017年から現職。放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会委員。著書に「権力VS調査報道」(旬報社)ほか

 

(KyodoWeekly9月14日号から転載)

全国選抜小学生プログラミング大会
新型コロナ特集
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ