「追悼企画」大林宣彦映画の私的ベスト5

 新型コロナウイルスの影響により、公開が延期となっていた大林宣彦監督の遺作「海辺の映画館―キネマの玉手箱」が、7月31日から全国公開された。大林監督は、くしくも本作の当初の公開予定日だった4月10日に82歳で亡くなった。4カ月遅れの追悼企画として、私的ベスト5を紹介したい。

 

「転校生」(1982)

SF(少し不思議)な青春ファンタジー

 中学生の斉藤一夫(尾美としのり)のクラスに、幼なじみの斉藤一美(小林聡美)が転校してきた。ある日の学校からの帰り道、一夫と一美は、一緒に神社の石段から転げ落ち、2人の心と体が入れ替わってしまう。

 大林監督が山中恒の児童文学「おれがあいつであいつがおれで」を、自身の故郷である広島・尾道を舞台に映画化し、自らが得意とするSF(少し不思議な)青春ファンタジーとして仕上げた。全編にあふれる2人のコミカルなやり取りとは対照的に、ラストの別れのシーンがひときわ切なく映るのが大林ワールドの真骨頂だ。本作は、「時をかける少女」(83)、「さびしんぼう」(85)と続く「尾道三部作」の第1作で、尾道を観光都市として有名にし、全国各地のフィルムコミッション(撮影場所の誘致や撮影の支援をする機関)の先駆けともなった。2007年には、「転校生―さよなら あなた―」として、長野を舞台に蓮佛美沙子主演でセルフリメークされている。

 

「時をかける少女」(1983)

ファンタスティックで切ないラブロマンス

 放課後の理科実験室でラベンダーの香りをかいだことをきっかけに、芳山和子(原田知世)はタイムトラベラーに…。彼女と未来人(高柳良一)との淡い初恋と学園生活を描いたファンタスティックで切ないラブロマンス。

 今回は筒井康隆のジュブナイル(少年少女向け)SFを映画化。原田の映画デビュー作ということもあり、大林監督はアイドル映画の手法を用いながら、自身の故郷・尾道に舞台を移し、ノスタルジックな背景を構築。その一方、当時の最新の特撮技術を駆使して、タイムトラベルという非現実を見事に映画の中に取り込んでみせた。

 本作のスピンオフ的なアニメ版(2006)や、本作の“その後”を描いた仲里依紗主演版(2010)の存在は、本作が後の映画に与えた影響の大きさを物語るばかりでなく、一本の映画の世界が広がっていく楽しさを感じさせてくれる。未来人の深町が語る「土曜日の実験室」というせりふを懐かしく思い出す人も多いのではないだろうか。

 

「異人たちとの夏」(1988)

大人のためのファンタジーホラー

 結婚に失敗した中年の脚本家・原田(風間杜夫)が、故郷の浅草で12歳の時に死別した両親(片岡鶴太郎、秋吉久美子)と再会したことから、懐かしくも切ない奇妙な生活が始まる。同じ頃、彼は謎の女性ケイ(名取裕子)と知り合う。生活に充実感を覚え始める原田だが、次第に精気を失っていく…。

 原作・山田太一、脚色・市川森一、監督・大林宣彦による、大人のためのファンタジーホラー。渇ききった現代人の日常に潜む孤独と幻想が描かれる。原作が脚本家の山田太一だけあってもともと映像がイメージしやすい原作ではある。

 だが、本作は、夏の風景、浅草という街が持つ独特の懐かしい雰囲気を見事に映し出した映像、そして主人公を演じた風間、若き両親役の片岡、秋吉の巧みな演技が相まって、映画ならではの表現力の素晴らしさを改めて感じさせてくれる。特に、風間が背中で悲しさを表現した両親との別れのシーンが絶品。大林監督が意図的にちりばめた隠喩の数々にも注目だ。

 

「青春デンデケデケデケ」(1992)

ロックに明け暮れる高校生たちの日常

 芦原すなおの直木賞受賞小説を映画化。今回の舞台は、大林監督が得意とする故郷の尾道ではなく、1965年の香川県観音寺。ザ・ベンチャーズの「パイプライン」(サビの部分が“デンデケデケデケ”と聴こえる)にしびれてバンドを組んだ4人の高校生(林泰文、大森嘉之、浅野忠信、永堀剛敏)のロックに明け暮れる生活を描く。

 非現実を映像化することを得意とする大林監督だが、本作では、手持ちカメラでの撮影による揺れや移動をそのまま生かすなど、ドキュメンタリー的な手法を用いて田舎町の高校生たちの日常を活写する。多彩な登場人物たちの点描も面白い。加えてリズミカルな編集と楽曲で観客を乗せ、違和感なく65年にタイムスリップさせてくれる。クライマックスは町の皆が集う学園祭での演奏会。彼らにも、卒業、別れ、青春の終わりが訪れる。見終わった後に、もう一度高校時代に戻りたい、けれども決して戻れない、と気付き、ちょっと切なくなるような映画だ。

 

「海辺の映画館―キネマの玉手箱」(2020)

“根も葉もある絵空事”の集大成

 閉館の時を迎えた尾道の海辺にある映画館「瀬戸内キネマ」。最終日のオールナイト興行「日本の戦争映画大特集」を見ていた3人の若者が、突如発生した稲妻の閃光(せんこう)に包まれ、スクリーンの世界の中に入り込んでしまう。

 大林監督が20年ぶりに故郷・尾道で撮影し、サイレント、トーキー、アクション、ミュージカルと、さまざまな映画表現で近代日本の戦争の歴史をたどっていく。約3時間の間、ストーリーを無視した、何でもありの映像のコラージュを見せられるのだが、そこには、狂気すら感じさせるようなパワーがあふれ、時折、はっとさせられるような、いいシーンやせりふもあった。

 生前、大林監督にインタビューをした際、監督はこんな言葉で締めくくった。

 「フィクションには“うそから出たまこと”がある。たとえ絵空事でも、根も葉もあれば花が咲く。皆さんは、根も葉もない絵空事のように映画を楽しんでくださればいいわけだけど、本当は、映画というものは、根も葉もあり過ぎる作り手の思いが込められた絵空事なんですよ」。今、改めてその言葉をかみ締めると、本作は“根も葉もある絵空事”の集大成であり、紛れもない大林宣彦の遺作だと思えるのだ。

(映画ライター 田中 雄二)

 

(KyodoWeekly8月24日号から転載)

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