「緊急誌上座談会」「台本なき番組」の陰 中傷投稿の対応を問う

 フジテレビの番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラー、木村花さんの自殺がさまざまな波紋を広げている。リアリティー番組制作の在り方や、SNS(会員制交流サイト)上での誹謗(ひぼう)中傷への対応などに多くの課題を突き付けたためだ。花さんの死から何を学ぶべきか、論点を整理しながら関係者に話し合ってもらった。

 

 ―最初に、人気番組だった「テラスハウス」のあらましについて確認したいと思います。

 A(週刊誌記者)「まずは、恋愛リアリティー番組というジャンルについて押さえておきたい。男女のタレントを多数出演させて、素顔の彼ら彼女らの間に実際に生じる恋愛や破局、友情、葛藤などの出来事をそのまま追いかけ、撮るもの。米国などで早くから人気コンテンツとして定着し、Huluやネットフリックスなどの番組配信サイトでシリーズ化されている」

 B(番組の視聴者)「『テラスハウス』の場合、募集によって選ばれた初対面の男女6人がシェアハウスで共同生活する様子をそのまま映しだし、それにスタジオの出演者がコメントする設定。基本的に台本はなく、出演者それぞれの個性が織りなすリアルな人間関係そのものが番組の命だ。愛の告白や失恋、悩み、想定外のハプニング、出演者たちが衝突したり和解したり、ドラマではなくドキュメンタリーならではの筋書きのない展開に毎回、引き付けられて見た」

 

制作現場の闇

 

 ―恋愛リアリティー番組がはやる背景には、制作サイドの事情もあるようですね。

 C(SNSユーザー)「すぐれた脚本は必要なく、制作側は基本的に舞台を設定するだけ。テレビに出たい若手タレントをうまく人選して集めればよく、相対的にコストは安く上がる。一方、視聴率を取るためには『次はどうなる?』という展開力、ストーリー性が必要になるだけに、出演者たちが見せてくれるハラハラドキドキを各回の見どころとしてどう構成するか、演出がいき過ぎないよう、さじ加減が難しい面はある」

 ―プロレスのリングとは異質の「舞台」に身を置いた木村花さんが追い詰められていく経緯を振り返ってください。

  「『TERRACE HOUSE TOKYO 2019―2020』がネットフリックスで配信開始となったのは2019年5月。木村花さんが出演(入居)を始めたのは同10月の20話から。フジテレビの資料によれば、制作スタッフが花さんの出演を決めた要素として、『彼女が恋をしたら、プロレスラーという一般的なイメージとのギャップもあり絶対かわいく描けるな、とスタッフ間で話し合い、満場一致でほぼ内定』という記述もある」

  「ところが、今年3月31日、問題の38話が配信された。この回では、花さんが愛用のプロレス用のコスチュームをうっかり洗濯機に残していたところ、別の男性入居者が気づかずに自分の衣類と一緒に洗濯し、乾燥機にかけてしまった。花さんのコスチュームは縮んで使えなくなり、怒った花さんが男性を激しく責め、相手がかぶっていた帽子をはたき落とした。これがSNS上で炎上した」

 ―花さんの悔しい気持ちを思いやるより、映像に映し出された言動がバッシングの的となったのですね。

  「花さんの怒りはもっともだし、相手の帽子を脱がせて投げるぐらいの行為があってもおかしくないと思う。問題なのは『相手に対してキレる』よう、制作サイドから指示というか誘導があったと疑われること。ある種のやらせだ。これについては、花さんの母親である響子さんの告発記事(週刊文春7月9日号)が注目を集めた」

  「文春のインタビューで響子さんは、花さんから後日、『番組スタッフからビンタしたらいいじゃんと言われた。でもさすがにそれはできなくて、苦し紛れに帽子をはたいたの』と聞かされたことを打ち明けている。『花の言動を炎上の燃料に使っているのは明らかでした』ともつづっている」

  「また文春は、38話の配信直前に、コスチューム事件を取り上げた予告動画が流れた段階ですでに批判が巻き起こっていることに花さんが悩み、友人へのLINEメッセージで『自分の仕事道具壊されて、スタッフにカメラの前でキレろって言われて』『なんでこんな言われなきゃならんの』などと困惑していた様子を報じている」

  「花さんは一つ前の37話のイベント、京都旅行編でもその男性入居者の振る舞いに不満を募らせていて、一連のことにたまりかねて今回の言動となった。1場面だけ切り取って批評してほしくないという気持ちもあったと思う」

 ―フジテレビは「やらせ」の件をどう説明していますか。

  「同局が7月末に発表した検証報告によれば、花さんがビンタをするよう指示や強要した発言は確認できなかったし、スタッフが花さんにけしかける、あるいは怒りをあおるような様子はなかったと説明している。収録現場でさまざまな提案や助言をすることはあっても、『番組内のすべての言動は、基本的に出演者の意思に任せることが前提』だと強調している」

  「ただ、この検証報告はフジテレビの社内関係者による内部調査で把握できたもので、お手盛り感は否めない。第三者委員会を設置しなかった理由として報告は、外部の独立委員のみでは聴取対象者らにかえって発言を控えさせたり過度な精神的負担を強いたりする懸念を挙げているが、説得力に欠けるよ」

  「仮に明確な指示や強要はなかったにせよ、スタッフが提案や感想を口にすれば、立場の弱い若い出演者はそれを演出上の指示と受け止めた可能性はある。もちろん、人間関係や感情は本人の意思だろうけれど、その表現方法については制作側の意図を酌んで『テレビ向け』に誇張している面もあるのかなと感じることは時々ある」

  「母親の響子さんは番組中で花さんが『暴力的な女性のように演出・編集され、人格や人権を侵害された』と指摘。放送倫理・番組向上機構(BPO)に人権侵害を申し立てる書類を提出した。今後はこちらの検証作業も見守りたい」

 

中傷投稿へのケア

 

 ―今回の問題では、やらせの有無のほか、SNSで炎上した出演者へのケアが十分だったかという論点もあります。

  「その通りだ。実は38話のコスチューム事件が配信された直後、花さんは手首を切る自殺未遂を起こしている。幸い事なきを得たが、炎上によって花さんが受けた心の傷について制作側のケアが十分だったか疑問だ。このころには新型コロナウイルス感染症の影響ですでに収録を中止し、それぞれ日常に戻った出演者と対面でのコミュニケーションを取りにくい事情もあったかもしれない」

  「SNSでは誰もがタイムライン上で読めるコメントのほか、誹謗中傷はDM(ダイレクトメッセージ)で直接、本人に届くことも多く、これは非公開で外部から把握しづらい。フォロワー以外はDMを送れない設定にする、悪質な書き込みは制作サイドで削除手続きをとるなどのサポートも可能だったのではないか。こうした反省点はフジの検証報告にも詳しい」

 ―しかし、周囲の見守りもむなしく、花さんは5月23日、帰らぬ人となりました。SOSは届かなかったのでしょうか。

  「その少し前の5月14日、YouTubeで38話にかかわる未公開動画が配信され、4日後の18日に38話が地上波のフジテレビで放送された。沈静化しつつあったコスチューム事件は結果的には蒸し返され、SNSで再炎上し、花さんを追い詰めた面があるのでは…」

  「恋愛リアリティー番組は低コストで視聴率を稼ぎやすい、局にとっては優良コンテンツとも言える。それだけに花さんのまっすぐなキャラクターが繰り出す話題性に、制作現場として甘えや悪乗りはなかったか、花さんの内なる苦悩にもう少し寄り添うすべはなかったか。出演者と視聴者をつないで、どんな感動を伝えたいのか。関係者は花さんの死を無駄にせず、リアリティー番組作りを根本から問い直す契機とすべきだ」

 

SNSに新ルール?

 

 ―次の論点は、主にSNSを介した誹謗中傷をいかに防ぎ、被害者をどう救済するかについてです。ここからはBさんに代わって、ネット評論家のDさんに加わってもらいます。

  「世論の後押しもあって政府の動きは早かった。高市早苗総務相は5月26日、ネット上の発信者の特定を容易にし、悪意のある投稿を抑止するため制度改正を検討する意向を示した。花さんの死のわずか3日後のことだ。もっとも、この問題を論じる前に、発信者情報開示の現状の仕組みを押さえておきたい」

 D(ネット評論家)「まずは、いわゆるプロバイダー責任制限法(プロ責法)について。匿名の書き込みなどによって名誉を毀損(きそん)されたりプライバシーを暴露されたりした場合、権利を侵害されたことが明らかで、正当な理由があるとき、被害者はプロバイダーに対し発信者情報の開示を請求できる」

  「2001年の制度化から約20年たつ。かつてはネット掲示板の代表格、2ちゃんねるなどを念頭に立法化されたが、今は主舞台がツイッターなどのSNSに移った結果、拡散力が増して被害の深刻さも救済の緊急性も格段に増した。とりわけリプライ(返信)の付き方など他者の反応がビジュアル化し、炎上が起きやすくなっている」

 ―現行ルールでは、具体的に手続きはどうやるのですか。

  「被害者が投稿者に対し、書き込みをやめさせたり損害賠償を求めたりするには、その意思を通知するため、まず本人を特定する必要がある。そこでまず投稿者がアクセスした通信記録(ログ)の開示をSNS事業者に求める仮処分を請求し、それが認められれば今度はプロバイダーに投稿者の住所や氏名の開示を求める。つまり2回の裁判手続きが必要になる」

  「やはりSNSでの誹謗中傷に悩んでいる女優の春名風花さんが毎日新聞のインタビューで、粘り強く裁判をたたかっている現状を紹介しつつ『罪を罪だと認めてもらうために、なぜこんなに時間とお金がかかるのだろうか』と問うている」

  「現状の2回の裁判手続きは、手間も日数もかかるなど被害者の負担が大きすぎる。しかもSNS事業者の多くは海外に本社があるので、手続きはなおさら面倒だ。そこでSNS事業者には追加で投稿者の電話番号の開示を求める案が出ている。電話番号があれば、弁護士照会で投稿者の情報が得られ、裁判手続きは1回で済む」

 ―その裁判手続きをさらに簡素化しようという案を、総務省が検討中だと聞きました。

  「権利侵害が明白だと証明する代わりに、裁判官が権利侵害は確からしいと思える程度の『疎明(そめい)』で足りるとする案で、訴訟のハードルを思い切って下げることで被害者の泣き寝入りを防ぐ狙いだ。ただこの場合、訴訟手続きからプロバイダーが外れる結果、投稿者本人が被告となることが見込まれ、ごくまっとうな批判などの投稿を萎縮させてしまうなどの慎重意見も多い」

 ―投稿による表現の自由と、個人の権利保護のバランスをどうとるか、という問題ですね。

  「その通りだ。もともと個人の名誉を損なう書き込みであっても、公共性や公益性、真実性があれば違法とならない。政治家や自治体の首長など公職にある人への健全な批判や批評はもちろん、不正や不条理を暴く勇気ある告発も、当然、守られなければならない」

  「一方で、飲食店や宿泊施設などに対するネガティブな感想や辛口コメントなどが、開示請求におびえて書き込まれなくなっては不都合だ。ステルスマーケティング(第三者を装って意図的に好意的な口コミを展開する宣伝術)への対抗上も、こうした健全な批評はネット社会に欠かせない情報だといえる」

  「この問題に詳しい北澤一樹弁護士は読売新聞のインタビューで『多数の開示請求に対応していると、違法かどうか判断が難しい表現や、正当な批判を封じるために制度を悪用しているとしか思えないものなど様々なケースに直面する』と話している。専門家ですら線引きは微妙だということだ」

 ―海外ではどうですか。

  「Cさんがさきほど、SNS事業者の多くは海外だから余計に面倒だと言ったが、日本のプロ責法に頼らない方法もある。米国の民事訴訟の『ディスカバリー』という証拠開示制度を使うと、氏名や住所だけでなく電話番号や、場合によってはクレジットカード情報なども開示対象になるという。申し立てから1カ月以内に開示になることも多いと、日本経済新聞が報じている」

 

自助努力の試みも

 

 ―裁判手続きによらず、SNS事業者に何か手を打ってもらうことはできませんか。

  「有識者でつくる総務省の研究会が先ごろ、ネット上の誹謗中傷への対応に関する緊急提言案をまとめた。その中でネット上の誹謗中傷について、他人の権利を侵害する『違法情報』と、法的には必ずしも権利侵害情報に含まれない『有害情報』とに分類したうえで、前者については本人の申告を受けて速やかに削除、非表示とするなどSNS事業者の対応を促している」

  「さらに被害者の申告を待たずに自らが常時監視し、権利侵害情報(違法情報)を見つけたうえで迅速な対応をとることも想定される、とも書いている。今後、機械学習を含むAI(人工知能)によるアルゴリズム(計算手法)も活用し、違法な投稿を未然に防ぐ手法にも期待を寄せている」

  「米ツイッター社は最近、投稿に返信できる人を、フォローしている相手や指定した人に限定できる新しい機能を導入した。悪意の返信をブロックでき、第三者による誹謗中傷を防ぐ効果を見込んでいる。賛否両論あるにせよ、SNS事業者が仕様の変更により有害投稿を防ぐユーザーの選択肢を設けた試みは注目に値する」

 ―ただ、SNS事業者に一律の監視を任せてしまうと、予防的に過剰なフィルタリングをかける心配はありませんか。

  「もちろんその懸念はある。監視のアルゴリズムやフィルタリングのプログラムは公開し、透明性を確保したうえで第三者のチェックを受けるなどの手順を踏みたい。この議論はフェイクニュース対策をプラットフォーマーにどこまで関与させるか、という問題とも共通する」

  「『法のデザイン』(フィルムアート社)などの著書がある水野祐弁護士はかねて、ネットの世界は変化のスピードが速く法律は追い付けない、適宜、当事者間の契約と、ガイドラインなどのソフトロー(広範な合意形成)、アーキテクチャー(サービスの設計技術)を組み合わせてルール形成を図るべき、と説く。SNSの投稿ルールもまさにそうした多彩なツールを総動員して最適解を探していくべきテーマだろう」

 ―誹謗中傷の温床は、匿名化社会そのものだとする指摘があります。投稿の規制と匿名の問題をどう考えたらいいですか。

  「もちろん、匿名を隠れみのに無責任で攻撃的、差別的な書き込みをする者は許されない。一方、匿名は表現の自由を守る安全弁でもあり、それ自体を悪者にしてしまうと本質を見誤る。誰に気兼ねせず自由に発言できる匿名性ゆえに、勇気ある内部告発や本質を突いたコメントが生まれるのも事実だ」

  「今年5月、検察官の定年を引き上げる検察庁法改正案の今国会成立を政府が断念したのは、ツイッターで広がった抗議の輪が影響した。4年ほど前、『保育園落ちた日本死ね‼』と題した匿名のブログが話題を呼び、待機児童問題が一向に解消しないいら立ちに多くの人が共感した。これらが実名で実現したかは疑問だ」

  「いずれにせよ、SNSという情報インフラをいかに健全に育て維持するか、最後は私たちユーザーのネット・リテラシー(理解・活用力)の問題だ。総務省の委員会も緊急提言案の中で、若年化が進むユーザーの情報モラル向上のための啓発こそ重要だと説いている。前半で論じた番組制作の在り方も含め、花さんの死が私たちに残した課題はあまりにも多い」

(SNS発信者情報研究班)

 

(KyodoWeekly8月24日号から転載)

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