「陸海空の現場~農林水産」里山と共生する生活

山口さんが取り扱っている「澄み香」(筆者撮影)

 JR新幹線の回数券などを扱うチケット店で、ちょっとした「異変」が起きた。「Go To トラベル」の対象から東京都が除外され、7月下旬の連休中に有効期限を迎える東京発着チケットの相場が急落したのだ。東京・新橋では、東京発名古屋着を8500円(自由席、正規10560円)で売る店もあった。

 「東京」が投げ売りされているような複雑な気分になったが、過密な大都市のリスクを再認識すること自体は悪いことではない。ふるさと回帰や地方移住を促進するための好機だ。

 しかし、補助金で盛り上げるキャンペーンの効果が持続するとは思えない。コロナ禍をきっかけに地方への流入人口が増えると期待するのは甘い。これまでも直下型地震や富士山噴火が再三警告されてきたのにもかかわらず、大都市集中の流れは止まらなかった。感染拡大が終息すれば、「元のもくあみ」の恐れもある。

 ふるさと回帰や移住の流れを確実にするためには、過密からのリスク回避だけではなく、村や浜、里山の魅力を理解してもらい、一歩踏み込んだ価値の発見につなげていくことが不可欠だ。コロナ禍の前から、感性豊かな若い世代を中心に地方移住の潮流が芽生えており、この動きを加速することが重要だ。

 群馬県みなかみ町で建築士として働く山口長士郎さん(31)もそんなひとりだ。愛知県の自動車関連企業で事務系のサラリーマンをしていたが、2015年に父親が営む工務店に戻った。

 その傍ら、イヌワシなどの生態系を守る環境保護活動や、里山との共生を目指す自伐型林業に関わり、家族3人でニワトリやヤギを育てながら、家造り、カフェの運営、里山の広葉樹を活用した加工品を生産・販売する生活だ。「東日本大震災が契機になって何かを守りたいという気持ちになった」と山口さん。

 おがくずや里の樹木の枝葉を蒸留して精油を抽出する事業も始めた。「澄んだ森の香りを都会へ届けることで、森のすみかを守っていきたい」という意味を重ねて、「澄み香」と命名した。ヒバやヒノキだけでなく、スギの葉にも挑戦。精神をリラックスさせる効果があるとされる。

 杉の学名「クリプトメリア・ヤポニカ」は「日本の隠れた財産」という意味だという。「スギの葉には、オレンジやグレープフルーツのような魅力的な香りがあるのに、山でうち捨てられている。こうした財産を活用したい。森はいつも異なる発見があって楽しい」。山口さんはすてきな笑顔で語ってくれた。

(共同通信アグリラボ所長 石井 勇人)

 

(KyodoWeekly8月3日号から転載)

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