町から本屋がなくなっていく

 最近、藤原正彦の「本屋を守れ」(PHP研究所)を読んだ。作家新田次郎、藤原てい夫妻の次男で数学者として知られる。

 町のあちこちから本屋がなくなっていく。近所にある老舗の大型書店が閉店したときは、驚いた。つぶれないでほしいと願って、なるたけ小さい書店で本を注文することにしている。ネット通販で買えば早いのは分かっている。

 だが、よほどのことがない限りしない。藤原も同様で町の本屋をつぶすなと訴える。そして活字離れを憂い、教科書のデジタル化に怒り、小学生の英語教育に腹を立て、グローバリズムに反対する。みんなもっともな指摘だ。まことに痛快な新書である。

 藤原はなぜ「本屋を守れ」と主張するのか。それは町の書店は日本文化と精神の拠点だからで、とりわけ駅前の小さな書店が大事だという。町の書店を復活させるには勇気をもって携帯、スマホ、通販のアマゾンなどに規制をかけるべきだ、と提言する。

 本当にそれができるとは思えないが、「国語と読書の大切さを学ばず、子供のころから教室でインターネットや英語漬けにしたら、肝心のコンテンツをつくる日本人は将来いなくなる」。

 今回のコロナ禍をみても、ヒトやモノが国境を超えて自由に移動するグローバリズムの危険性を認識させられた。ヒトの移動はウイルス感染の拡大だし、モノの移動は部品供給網の脆弱(ぜいじゃく)性だ。グローバリズムは帝国主義や共産主義と同じく、人類を幸せにするものではないと、言ってのける。

 天才数学者、岡潔には及ばないが、藤原は風変わりな数学者である。米国と英国で研究生活を合わせて4年間過ごしている。助教授として数学を教えたこともあるから英語は達者なのだろう。

 だからこそ「子供に英語やITを詰め込めば国際人になって多様な価値観が育つというのは浅はかな人間観だ」と切り捨てる。そもそも英語で話す中身がないのに、伝達手段である英語力だけを磨いてペラペラしゃべって、何になるのだろうか。

 本書は月刊誌の8回分のインタビュー記事をまとめたものである。藤原に短い随筆を書かせると冴(さ)えわたる。ユーモアがあって、ちゃんと落ちがある。だがインタビューという話し言葉だからそれは望めない。

 また、これまで書籍で展開した持論をしゃべっているので、やや新鮮さも欠ける。独断的なところがあるが、誤解を恐れずに書くところが藤原のいいところなのである。

 まとまった内容の本を望まれるなら英米での体験記である「若き数学者のアメリカ」「遥かなるケンブリッジ」(いずれも新潮文庫)を手にされるといいかと思う。「若き~」はデビュー作だが、これが藤原の最高傑作であると思う。(敬称略)

(北風)

 

(KyodoWeekly7月27日号から転載)

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