介護職長続きの3条件

 離職率の高い職種の一つが介護職員だ。どうすれば、長く勤められるのか─。三菱総研がまとめた調査結果が厚生労働省の審議会に報告された。「長続きの理由」にスポットを当てた調査は珍しい。「やりがい」「仕事に見合う給与」「職場の雰囲気の良さ」が上位三つ。審議会は2021年度介護報酬改定をめぐる議論の真っ最中で、この調査結果を改定にどう生かすのか、課題を突き付けられている。

老人ホームでの食事介助=4月下旬、千葉県四街道市の住宅型有料老人ホーム(施設職員撮影)

有効求人倍率4・2倍

 

 厚労省によると、介護保険の対象となる介護事業所(施設含む)で働いている介護職員は約186万8千人(2017年度末)。団塊の世代が全員75歳となる25年末までに約245万人を確保しなければならず、約55万人(年間約6万人)増やす必要がある。

 ところが、有効求人倍率(2019年)をみると、 介護関係職員は4・20倍。ここ数年、倍率の上昇傾向が続いている。一方、全産業は1・55倍で上昇は緩やか。介護職員の不足がいかに深刻な状況にあるかが分かる。

 離職率は15・4%(介護労働安定センターの2019年度調査)。厚労省は「ここ数年にわたる処遇改善策の効果もあり、全職種平均の14・9%と比べ、極端に高いとは言えない状況に改善しつつある」と説明しているが、介護現場から「今も人手が圧倒的に足りない」と悲鳴に近い声が聞こえてくる。

 

見てくれより中身

 

 今回の調査は、三菱総研が厚労省の補助を受けて実施した2019年度調査研究事業。おおむね勤続10年以上の介護職員を対象とし、「勤務継続にあたり、重要と思うものは何か」「また有効と考える取り組み」について聞いた。

 「重要と思うもの」では、「仕事へのやりがいがあること」が36・6%でトップ。以下、「能力や業務内容を反映した給与体系」(31・4%)、「上司や同僚などを含めた職場全体の雰囲気が良いこと」(27・8%)と続く。要は、「やりがい」「仕事に見合う給与」「職場の雰囲気」が長続きの3条件だ。

 もう一つ注目すべき点は、「法人(経営母体)や事業所・施設の設備が充実していること」が1・5%で最低ランクだったこと。いくら施設が立派でもやりがいがない上、処遇や職場環境が悪ければ、介護職員が定着しないのが実態のようだ。

 年代別にみると、20代や30代の若い層は「仕事に見合う給与」と「休暇取得のしやすさ」(全体では24・7%で5位)の二つが同率でトップ。一方、60代、70代では「やりがい」が断トツ。介護事業経営者は世代間の違いを理解しておく必要がありそうだ。

 「有効と考える取り組み」は、【資質向上】【職場環境・処遇の改善】【その他(経営理念など)】の3グループごとに質問した。

 【資質の向上】では「中堅職員を含む研修の支援や代替職員の確保など」(66・1%)。【職場環境・処遇改善】では「職場での円滑なコミュニケーションによる勤務環境やケア内容の改善」(44・0%)、【その他】では「職員増員による負担の軽減」(57・5%)が、それぞれトップだった。

 6月25日、こうした調査結果が介護報酬改定を論議している介護給付費分科会に紹介された。目立った意見は出なかったが、閉会後、記者から感想を求められた介護団体委員は「労務管理や職場環境など痛いところを突かれた」と苦笑い。公益委員も「経営者の通信簿、行政への警告だ」と真顔でコメント。

 

ベテラン職員の声

 

 では、厚労省はどう受け止めたのか。老健局職員は「『処遇改善加算の申請などに関する調査研究事業』の一部を抜粋して介護給付費分科会に提出した」と型通りに説明した後、調査の活用については「分科会がどう考えるか」とかわした。

 介護人材の確保は厚労省の最重要施策の一つだが、効果が上がっているとは言い難い。2021年度からこれまでに介護職員の処遇(平均月給)を最高で合計5万7千円引き上げたほか、介護福祉士の就学資金や再就職の貸し付けの増額、中高年の就労を促す入門的研修制度の導入などの新期施策を次々に打ち出したが、人手不足に歯止めがかかっていない。

 介護事業者団体などから期待された外国人労働者の受け入れだが、昨年、日本定住が可能となる「特定技能」の資格で入国した外国人は60人足らず。「初年度6千人」のもくろみは見事にはずれた。

 横浜市内の特別養護ホームの施設長は「厚労省の施策はピントはずればかり。人手不足が解消しないと分かると『介護現場革新だ』『生産性の向上だ』『外国人だ』と言い出す。いまでも全産業との賃金差が約9万円もある。介護現場の実態や働く者の本音を理解しようとしない」と厳しい。

 厚労省はベテラン介護職員の指摘や思いを把握し、介護施策の転換に生かせるだろうか。

(福祉ジャーナリスト 楢原 多計志)

 

(KyodoWeekly7月27日号から転載)

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