「漫画の森」ラジオは常に逃げ場所?

 世の中にはあらすじを説明しにくい作品が存在する。「波よ聞いてくれ」(既刊7巻、沙村広明/講談社)がまさにその一つだ。はっきりしている点は(1)札幌が舞台(2)主人公はスープカレー店の女性店員(3)これはラジオの物語、以上である。

 しゃべりの素人・鼓田(こだ)ミナレが、ものを知らない強みを生かし、破天荒なパーソナリティーとして業界に斬り込む。ただ自ら意思決定したわけではないので、「斬り込む」は妥当な表現ではないかもしれない。たとえるなら、だんじりの大工方へとおだてられ、勢いで上ってみたところ、引き手がやる気まんまんで走り出したというところか。

 ディレクターの手のひらの上で転がされたミナレが、空白だらけの台本を前に、ほぼ毎回アドリブまみれの放送に挑む。仮想実況、ラジオドラマ、リスナー提案企画の軽率な採用など、コンセプトは自由奔放で方向性もばらばらだ。ゆえに、あらすじをまとめづらいのだ。

 冒頭からトップギアで走りだす第1話は名ぜりふが満載だ。ミナレがスカウトされるきっかけとなった街録の、小気味よいたたきつけるようなあけすけさ。その後始末を生放送で自らつけた言葉の雄々しい心意気。「素人の外録が上手くいき過ぎて仕込みを疑われるこの瞬間が大好き」とうそぶくディレクターに、一も二もなく同意したい。

 作者得意のバイオレンスアクションでも披露してきた、切れのいい会話と茶目っ気ある諧謔(かいぎゃく)を「人の死なない漫画」(作者の言)中に詰め込んだだけあって、笑いどころのないページを探すのが難しいほどだ。ハイテンションのせりふや有声無声のツッコミがさながらコントのようで、さすがしゃべり商売の人々が繰り広げるドラマだと妙に納得する。

 暴走しがちな新人ミナレとは対照的な、「局でも三指に入る人気の話し手」の先輩DJ、茅代(ちしろ)まどかの存在がまた面白い。円山公園のベンチでカップ酒を飲みながら、まどかがミナレに苦言を呈する場面(3~4巻)は数ある名シーンの一つだ。

 酒がまわるにつれ雑になり飛躍が多くなっていくまどかの「説教話芸」、口が達者すぎて「否定するつもりが肯定に」なるミナレの反論など、辛気臭くなりがちな新旧対立場面を笑いに変えるテクニックが存分に楽しめる。

 とはいえ、「面白い事の一つも言えない」ところから決意してパーソナリティーになったまどかが、存在自体飛び道具のようなミナレに投げかける疑問はよく理解できるのだ。事実、「ラジオは常に逃げ場所であるべき」が身上のまどかがリスナーにかける励ましの言葉は説得力に満ちて心にしみる。

 ついでながら、この場面では池の水面に映る彼女たちの姿を描いたり、ベンチの下から2人の姿を急角度で見上げたりなど、「そこまでやるか」な挑戦的構図が見られる。

 本作は、4月から6月までの1クール、TVアニメが放映された。30分近くしゃべり続け一度もかまない滑舌など、ハードルの高いミナレ役に真正面から取り組んだ主演声優の力演もさることながら、まだまだ続く原作を途中で切ることになる最終回のまとめ方が秀逸だった。真正のコメディーを、地震と災害報道のありようで引き締めてみせた、好感度の高いラストに拍手を送りたい。

(漫画愛好家 小岩 くぬぎ)

 

(KyodoWeekly7月13日号から転載)

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