
佐世保市のクーポン(上)と長崎県のキャンペーンサイト(下)
今回の新型コロナウイルス感染症対応の過程では、日本のデジタル化の遅れが顕現化した。というか、江戸時代から変わらない書面システムは非常に頑健で信頼性が高く、デジタルがいくら便利でも簡単にはその地位を奪われないのだ
当地でもそんなことを実感する出来事があった。それは、「さきめし」VS「紙のクーポン券」の一件だ。5月の連休中に長崎県佐世保市から「消費を喚起して飲食店を支援する施策」を打ち出したいので企画してくれとの依頼があった。われわれは当然、「さきめし」を使うことを提案した。
「さきめし」は西海みずきの職員が発案した、飲食店を応援する取り組みだ。常連客などが、コロナ禍で今は行けない飲食店に、後日行く分を先払いすることで支援するもので、福岡のIT企業Gigi社のアプリ「ごちめし」を使う。サントリーグループや地方自治体、商工団体など各方面の協力や賛同を得て、全国的に活用されており、今や登録店舗は1万に迫っている。
しかし、佐世保市には、この提案は受け入れられなかった。アプリを使うのは高齢の市民はもちろん、市の上層部にもハードルが高いというのだ。結局、紙のクーポンを配ることになった。3密対策の記載が必要など、面倒くさい紙による申請手続きをなんなくクリアして佐世保市内700もの店舗が1次募集で集まった。
一方、長崎県は、「さきめし」を活用してくれた。県内の飲食店に「さきめし」すると、その額の3割に相当する県産品福袋が届くという大盤振る舞いのキャンペーン(以下「ながさきめし」)。しかし、「ながさきめし」に参加しているお店は、県全体でまだ150店舗。
佐世保市内700店舗と県全体150店舗。この差はなに?
「ながさきめし」はスマホで簡単に店の申請手続きができる。お客さんもアプリで店を探しクレジットカードを利用し簡単に「さきめし」できる。また、1店舗あたりの分配額も佐世保市が10万円なのに対し、「ながさきめし」は、60万円程度(現在の参加店舗数で予算を割り算)。断然「ながさきめし」が得なのだ。
「どう思う?」年配の職員に尋ねてみた。アマゾンや楽天市場で買物したことはなく、クレジットカードを使うのは大型家電を買うときぐらいという彼が言うには「スマホ操作では何が起こるか不安だし、クレジットカードの番号も盗まれるかもしれません。やっぱり、紙が安心です」。
長年慣れ親しんだ書面システムへの信頼に、スマホアプリは太刀打ちできないという事実を突きつけられた。当地のITリテラシー向上への前途はけわしい。もうどうでもよいが、せめて、佐世保駅やハウステンボス駅で「スイカ」を使えるようにしてほしい。
(西海みずき信用組合理事長 陣内 純英)
(KyodoWeekly7月6日号から転載)