バーチャル空間の音楽シーンに注目 新しい音楽体験を創造

 コロナ禍の外出自粛要請で、自宅で過ごす時間が増え、音楽に親しんだ方も多いだろう。最近では「3密」を回避できる新たな可能性として、インターネットを介したバーチャル空間の音楽イベントが注目を集めている。大阪大学でポピュラー音楽文化を研究する加藤氏が、最先端の状況を解説した。(編集部)

シャープネル氏がユーチューブにアップした「ハーコーバイブスあふれるバーチャルDJ動画できたよー!」(2019年11月17日)のワンシーン

 バーチャルリアリティー (VR) 技術を用いて、生身の人間がCGやイラストで描かれたキャラクターになりきり、映像配信を行うバーチャルユーチューバー  (VTuber/Vチューバー) 文化。ブームが始まった2017年下旬には10人程度だったが、いまや1万人を超え、すっかりポップカルチャーとして定着した感がある。

 ただ「3Dのキャラクターが人間らしく動く」ことが珍重された時代はとうに過ぎ、「バーチャルな肉体を得て、あなたは何をしたいのか?」が問われるフェーズを迎えている。

 2019年以降は、アイドルとして活動するVTuberたちが「現実世界の」会場で大規模ライブを次々と成功させていることも、そのポテンシャルを示すものとして注目されている。VTuberグループ「にじさんじ」は両国国技館で約6千人を動員するライブを実現させ、同じく人気グループ「ホロライブ」も豊洲PITでのライブチケット約3千枚が即完売。壇上のスクリーンに映し出されたVTuberたちは歌とダンスで会場を大いに沸かせ、バーチャルアイドルと同じ空気を吸える喜びにファンは熱狂した。

 そんな成功から半年弱。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、VTuberのイベントも軒並み中止や延期を余儀なくされている。存在はバーチャルなのだが、それらを支える高度な映像配信のためには専用の設備やスタッフが欠かせないし、どうしたってイベントには現実の会場が必要なのだ。「バーチャル」なアイドルを応援しているはずなのに、実際は「リアル」の事情に制約されてしまう…そんな現状に、はがゆい思いをさせられたファンは多いだろう。

 

大いに盛り上げる

 

 これは筆者の観察にすぎないが、VTuberのブームが起こった2017年の頃、ファンの多くが夢見たのは「自分もバーチャル世界に入って、彼女たちに出会いたい!」ということだった。それから3年弱、VR空間でのライブは実現こそすれ、いまだ発展途上の段階にある。

 国産VRプラットフォーマーの「クラスター (cluster)」や「バーク (VARK)」などはライブ運営実績を着実に積み重ねているが、その体験に欠かせないゴーグル、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)  が5万~10万円程度といまだ高根の花で、絶対的な観客数が少ないのだ。さながら1990年代のパソコン通信のように、VRライブを体験できる層は限られている。

 それでも未来は近づいている。とりわけ先駆的なのがDJシャープネル (SHARPNEL)の存在だ。

 1990年代から日本のクラブシーンで活躍してきたシャープネル氏は、2017年に「バーチャルDJ」として活動することを宣言。世界最大のVRプラットフォーム「VRチャット」内に自らのクラブ「アキハバラ・ライブ・クラブ (Akihabara Live Club)」を建築し、世界中から訪れるファンをそのサウンドで魅了している。

 シャープネル氏は今年4月29日から5月10日にかけてVR空間上で開催され、100万人近くが来場した世界最大級のイベント「バーチャルマーケット4」の支援者向けパーティー「Vケット・クラブ・ナイト」にも出演し、ステイホームを順守しながら、バーチャル空間に集う仲間たちを大いに盛り上げた。

 VR空間への関心が高まっているのは日本だけではない。とりわけ感染拡大が続くアメリカでは、なにもかもが中止になっていく現実に代わって、オンラインゲームを活用したバーチャル音楽イベントが次々と開催されるようになっている。中でも全世界で2億本を売り上げたブロック工作ゲーム「マインクラフト」は、その高い自由度とお手軽さが評価され、しばしばバーチャルイベントの開催地に選定されている。

 このゲーム上で7月上旬に開催されるバーチャル音楽フェスティバル「レイヴ・ファミリー・ブロック・フェスト (Rave Family Block Fest)」では延べ65ものステージに計850人が出演する予定だが、これは毎年十数万人が訪れる世界最大級の音楽フェス、英グラストンベリー・フェスティバルと同程度のスケールだ。

 もちろんグラフィックは現実よりもずっとチープだが、これほど大規模のイベントを安全に、かつ低コストで実現できるという、バーチャル空間の可能性を示した一例といえるだろう。

 こうしたバーチャルな音楽体験の濃度は、まだ現実のそれには及ばないかもしれない。しかし今年3月に商業利用が始まった5G回線は、これらをより現実と遜色ないものへ、そして「現実以上」のものへと進化させていくはずだ。

 地域や国境を越えて実現する遠隔合奏。そのサウンドに合わせて、VR上に築かれた超豪華な特設ステージからバーチャルアイドルが歌い、踊り、宙を舞い、ファンに語りかける。こんな「ライブ」を、眼鏡ほどに軽いHMDを装着すれば一瞬で、どこにいたって、何十万人でも一緒に楽しめる…。

 そんな未来に、人々は懐かしく語るかもしれない。「バーチャルアイドルのライブのために、国技館へ行った時代もあったんだよ」と。 

[筆者]

大阪大学文学研究科・音楽学研究室在籍

加藤 賢(かとう・けん)

 

(KyodoWeekly7月6日号から転載)

全国選抜小学生プログラミング大会
新型コロナ特集
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ