「風のたより~地域経済」ホタルは最高の先生

2015年6月、三重県大台町久豆(撮影者:宮川雅彦)

 今年も自宅の周りで、数十匹のホタルが飛んだ。明滅する光は求愛のサインだというが、ゲンジボタルは幼虫の頃から発光しているのをご存じだろうか。春になって初めて生暖かさを感じる雨の夜、川からはい上がってくる無数の幼虫は、幻想的な青白い光を放っている。

 ホタルは甲虫類、“カブトムシ”と同じ仲間で、卵から幼虫、サナギ、成虫へと完全変態する。その形だけではなく、生活場所も変える。世界に2千種余り生息するホタルの中でも、水中で幼虫時代を過ごす種類はとても珍しいそうだ。

 ゲンジボタルの産卵場所はコケの上、ふ化した幼虫が育つのは、餌の水生巻き貝カワニナがいる水の中、成熟した幼虫がサナギになるのは土の中だ。コケから水、そして土へと引っ越ししながら成長する。羽化しておなじみのホタルの姿になるまで、実に11カ月以上。1年間の寿命のうち、明滅しながら飛翔するのは最後の約10日だけだ。

 2004年の豪雨災害前、「大杉谷のほたるの里公園」では万単位のゲンジボタルが飛んでいた。だが、災害後はほとんど飛ばなくなり、16年を経た今も元の数には戻っていない。

 災害前の公園は、うっそうとした樹木に覆われ、木陰に生えた草やコケが緩やかに河原へとつながっていた。川には数えきれないほどカワニナが生息し、そのカワニナの餌となる落葉や珪藻(けいそう)類が豊富にあった。この公園にはホタルが命をつなぐために必要な全てが集まっていた。

 長い時間の中であらゆる生物がつながりまくった結果、成り立った集合体が生態系だ。生態系の存在は、教科書では目に見えないものとしてその関係性が図示されているだけだ。だが、ゲンジボタルを通して考えてみると、知識が自然から得た知見と結びつき、生態系の存在があたかも見えるように感じられる。ホタルは生態系をわかりやすく教えてくれる最高の先生だ。

 さて、災害復旧工事では、川はコンクリートに覆われることが多いのだが、ほたるの里公園には部分的に自然素材を生かした護岸が採用された。現在は断続的に崩壊があり、不安定な状態ではあるものの、森の始まりである荒地を好む草木が生えている。何十年何百年かの後、生態系の回復とともにホタルの数も戻ってくるはずだ。

 しかし、まだまだ生態系を省みない工事も多い。つい先月も、体験活動をしている水辺の一部が完全な三面張りにされ、心底がっかりした。昨今は「多自然型川づくり」が推進されているが、道半ばだ。工事に求められる利便性も、経費削減も、部分的でいいという理屈もわかる。だけど、もうつべこべ言うのはなしだ。

 初夏の風物詩としてだけではなく、生態系の一部としてホタルをとらえてほしい。今年ホタルを見た人はホタルが飛べる意味を、最近ホタルを見なくなった人はホタルが飛ばなくなった意味を問いたくなるだろう。そして、今に残された生態系の尊さや、はかなさを感じ、ホタルが飛び続ける自然を丸ごと全部未来へとつなげていきたくなるはずだ。

 ホタルの存在はその背後にある生態系、ひいてはヒトにとっても良好な自然環境の存在証明でもある。

(NPO法人大杉谷自然学校 校長 大西 かおり)

 

(KyodoWeekly6月29日号から転載)

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