「音楽の森」世界第2位の音楽市場の〝いま〟

 新型コロナウイルスの感染拡大防止を目指した、緊急事態宣言が5月25日夜に全面解除された。この間、商業・公共施設の休業や、音楽、演劇、スポーツなど各種イベントの開催中止が相次いだ。感染拡大を阻止するために自粛措置は不可避であり、各業界は必死の努力でそれに応えてきた。

 しかし、こうした自粛の後遺症として、エンタメ業界は危急存亡の時を迎えている。ぴあ総研の調査によると、2月から5月までの4カ月間で約20万件の公演や試合が中止となり、入場料金だけでも3600億円以上の売り上げが失われたという。

 とりわけ音楽産業にとって「ライブやコンサートができない」のは非常事態だ。縮小を続けるCDなどのソフト市場にかわって、ライブは近年の音楽産業を支える柱となっていたからである。2014年にはライブ市場がソフト市場を逆転するなど、「ライブで稼ぐ」モデルは今や業界のスタンダードだ。ゆえに今回の新型コロナ騒動は未曽有の危機的状況であり、ほぼ全ての事業者が大幅な減収に見舞われている。日本ポピュラー音楽学会 (JASPM) が4月に行った調査では、音楽関係者の約54%が、3月から5月に予定されていた収入の9割以上を失ったと回答している。

 なかでも深刻な状況にあるのが、初期に集団感染の現場となってしまったライブハウスだ。当事者たちは公演中止による経済的苦境のみならず、過剰な自粛圧力や偏見とも向き合いながら、営業再開に向けたコロナ対策を進めている。だが、再開にあたっても観客の接触・歌唱の禁止やシールドの設置が検討されるなど、かつての「ライブ」が戻ってくるのは遠い先の話となりそうだ。

 中止になった公演の代替として、WEB配信を行うミュージシャンもいる。価値ある試みだが、現時点ではとうてい損失補てんには届かない。また施設存続のための寄付やクラウドファンディングも行われているが、社会全体が所得・需要減に伴う不況に陥るなかで民間の相互扶助に頼るのは限界がある。あくまで緊急避難の一つとして見るべきだ。

 感染拡大を防ぎつつ、しかし音楽文化を守るためには、国費による持続的な補償が不可欠だ。6月12日に成立した第2次補正予算においては、従来の融資や持続化給付金の積み増しのほか、2兆円規模の家賃支援給付金制度などが新設された。音楽業界においても固定費に苦しむ声が数多く聞かれていただけに、これは適切な対策だといえる。

 また、緊急事態宣言の解除にあたって経済産業省が5月に新設した給付制度「持続化補助金」も同じく有効な施策である。だが、これらも自粛によって生じた巨額の損失や、一度変わってしまった消費習慣を埋め合わせるには至らないだろう。さらなる文化振興策の新設は急務である。

 100年以上の歳月をかけて、日本は世界第2位の音楽市場を築き上げてきた。それは「音楽に携わって生きてこられた」人々の総量を示すものでもある。それがどれほど幸福であり、誇るべき文化的偉業であったのか。その肥沃(ひよく)な土壌が、いかに多くの名曲を育んできたのか。すべて失った後に、それを悔いるような真似はしたくない。

(大阪大学文学研究科・音楽学研究室在籍加藤 賢)

 

(KyodoWeekly6月22日号から転載)

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