「漫画の森」絵で見る芝居のすごさ

 芸能界を舞台にした作品といえば女性向けのイメージが強いが、「アクタージュ act―age」(既刊11巻、原作・マツキタツヤ、漫画・宇佐崎しろ/集英社)は役者志望の少女の歩みを少年誌で描く野心作だ。

 主人公、夜凪景(よなぎ・けい)は演技経験がなく、知名度もコネも皆無。だが俳優発掘オーディションで、その芝居の突出した説得力が演出家の目を引く。必要な演技のため過去の感情を引き出し追体験する、メソッド演技と呼ばれる手法を身に着けていて、「悲しいことやつらいことがあると、違う自分になろうとして、つい本当の自分を忘れてしまいそうになるでしょ?」と真顔で訴えるほどの集中力が武器。才能あふれるあまり変人の域に達しているが間違いなく真摯(しんし)、普段の静かなたたずまいと演技時の異様な存在感のギャップが強烈だ。天才女優を描いた先駆的作品「ガラスの仮面」の北島マヤの流れをくむ主人公だが、景の能力は輪をかけてアンバランスである。

 芝居のすごさを絵で見せ続けるのは実は容易ではない。「ガラスの仮面」でも、マヤの異能を読者が理解するには周囲のキャラによる解説が不可欠だった。本作にも同じハードルが立ちはだかるが、第1話のオーディションで景が見せた「危険な野犬に出くわした演技」は言葉いらずの怪演に近い。「これは台本に書かれた設定」との認識を時として忘れ、「実際にその場にいたらどうするか」の方向に突っ走ってしまうのが彼女の能力であり短所でもある。暴走しがちな景を制御するのではなくイマジネーションを与え、「まだ見ぬ自分」を掘り起こす手助けをする演出家の手腕が見事だ。

 景の好敵手となるのが大手プロダクション所属若手トップ女優、百城千世子(ももしろ・ちよこ)。リテイク知らずの技術と高度な俯瞰(ふかん)能力で大衆の望む「天使」になりきり芸能界をけん引する。「素顔を晒(さら)してありのままに演じることを人間と言うなら、私は人間じゃなくていい」とまで言い切り、定期的にエゴサーチをしてイメージを微調整する徹底ぶりだ。だがその彼女も、冷静だからこそ見据える自らの「消費期限」に抵抗せずにはいられない。「天使を捨てる覚悟はいいか、百城千世子」との問いかけがキューとなり、景とのダブルキャスト演劇対決が実現する。「少し器用なだけの普通の女の子」を自認する千世子が、禍々(まがまが)しいほどの才をもつ景を追い込むために力を貸すのは、最初に景を見いだした演出家その人である。

 問題は彼女らが対決する舞台「羅刹女(らせつにょ)」だ。タイトルロールは孫悟空の世界観に登場する風の女神。夫の不貞に怒りと嫉妬を煮えたぎらせる設定で、10代の女優に課すにはいかにも酷な役どころだ。とどめとばかりに作品の脚本家が、複雑な家庭事情をもつ景の神経を逆なでする情報を暴露。年若い女優に羅刹女らしく怒ってもらうためのあおりに等しい燃料投下に、共演者の間にも動揺が走る。手ごわいライバルと張り合わねばならない景に、応援とも底意ともつかぬ変数が作用するのだ。

 はたして、芝居が終わり現実に戻ったとき、何かを失ってしまう役作りは是か否か。競って深淵(しんえん)をのぞき込む少女たちに少し怯(ひる)み、傍観者として同情し、次に思い至る。景が得意とするメソッド演技の理論に従うなら、彼女らが人生を懸け演ずるのは、われわれを含む大勢の人間のエッセンスにほかならないのだと。

(漫画愛好家 小岩 くぬぎ)

 

(KyodoWeekly6月8日号から転載)

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