「言の葉の森」指揮者は「指揮を執る」のか

 多かれ少なかれ言葉に関心を持っていても、校閲記者の皆が日本語や言語学に精通しているかといえばそうでもなく、同僚に学生時代の専攻を聞けば千差万別。それは政治・経済からスポーツ、芸術まで幅広い分野を扱う集団としての強みといえるかもしれない。

 ところで一般的には気にならないが、その分野に詳しいと引っかかる言葉というのがあるのではないか―。ということで今回は、音楽学を専攻していた私が少考した言葉に関する覚書です。

 〈この日の演奏会では、世界的指揮者の○○さんが指揮を執った〉

 引っかかったのは「指揮を執る」という言い方だ。辞書で「指揮」を引けば「①指示を出して、集団を動かすこと②〈演奏する/歌う〉人たちに合図しながら、音楽をまとめあげること」で、前者の例文に「作戦の指揮を執る」とある。では「執る」は、というと「筆など、棒状のものを手にして仕事をする」(いずれも三省堂国語辞典)。

 ここから考えるに、私は「指揮を執る」指揮者に“トップに君臨して率いる者”というイメージを持つのかも。最近はかつてのような“専制君主”タイプの指揮者は少ないような気がするし、指揮棒を持たないこともあるので、ここはシンプルに「指揮をする」で良いのでは…というのは個人的な感覚にすぎるだろうか。

  ×   ×   × 

 〈タブレット端末で「楽器アプリ」を使えば、楽器の初心者でも手軽に演奏を楽しめる。昔、口ずさんだ童謡を弾いてみませんか〉

 「タブレットを弾く」という表現に一瞬戸惑った私。「弾く」とは「(琴や琵琶などの爪を手前に引く意から)弦楽器・鍵盤楽器を演奏する」(広辞苑)こと。記事中の写真を見ると、タブレット画面に鍵盤が表示され、それをタップして音を出すアプリのようだ。なるほど、対象が仮想的でも人の動作に変わりはないから「弾く」としても差し支えなさそう。

 いま「琴」という語が出てきたが、ある芸能人のプロフィルに「趣味は琴」という記述が。ネット検索して見つけた動画でその人が弾いていたのは「箏(そう)」だった。ひとくちに「こと」といってもさまざまなタイプがあり、箏とは構造が異なる琴(きん)という楽器もある。ゆえに音楽学的には琴と箏は使い分けたい字。

 でも国語辞典で「こと」にあたると「箏の通称。『琴』と書くことが多い」(同)とある。一般的にイメージしやすいのは「琴」か…と赤字を入れようと伸ばしかけた手を引っ込めた。専門的な知識のせいで読者の多くを置き去りにしてはいけない、と思いを新たにしたのだった。

(毎日新聞社 校閲センター 西本 龍太朗)

 

(KyodoWeekly5月4/11日号から転載)

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