「風のたより~地域経済」「ポストコロナ」は地方創生

邑南町役場(邑南町役場提供)

 人がごった返す東京の風景が一変した。外国人観光客の姿は見えない。繁華街も、閑古鳥が鳴く。サラリーマンはテレワークに慣れた。人と出会えることこそが、東京の力の源泉だが、もろくも崩れたのだ。私はこの風景を見ながら、東京一極集中の終わりの始まりではないかと思った。

 もちろん地方もコロナの影響も受けているだろうが、そもそも人が少なく、感染リスクは比較的小さいだろう。「ポストコロナ」は、地方が浮上する絶好のチャンスになる。第5世代(5G)移動通信システムや人工知能(AI)も、地方にとって追い風だ。わざわざ東京に行く必要がない。どこでも仕事ができる。

 ただ、どの地方も受け皿になるわけではない。肝要なのは、知恵を絞って、独自性を出すことである。

 私が「ポストコロナ」で刮目(かつもく)しているのは、島根県邑南町(おおなんちょう)だ。「A級グルメのまち」として知られ、移住者が殺到している。 町では、B級グルメがあふれる中、「A級」をあえて打ち出した。地元には、石見和牛(いわみわぎゅう)をはじめ、放牧酪農の牛乳、キャビアなどおいしい食材がそろっている。「ここでしか味わえない」食体験を提供すべきだ。カリスマ公務員として知られる町役場職員の寺本英仁(てらもと・えいじ)氏がA級グルメの言い出しっぺとなった。本当においしいものは地方にあるという信念に基づいた行動だ。

 2011年には町営のイタリア料理のレストランがオープンした。「はやるはずはない」という懸念はすぐに吹き飛んだ。料金は決して安くはないが、客は絶えない。レストランが引き付けたのは、観光客だけではない。自ら料理をしたいという若者たちも集まった。

 また、町営の農園も整備され、有機野菜の栽培のノウハウを学べる。さらに、新設された起業家塾では、事業計画のつくり方なども習得できる。自分の店を持ちたいという人には、うってつけの環境の整備だった。

 2017年までの3年間で、3千人近くがレストランで働いたり、農業を学んだりした。そして、400人ほどが移住したという。

 邑南町は「日本一の子育て村」も標榜(ひょうぼう)している。中学卒業までの子どもの医療費の無料化、2人目からの保育料の無料化、さらに高校・大学進学の奨学金制度といった政策を提示した。こうした政策は今では珍しくないが、いち早く取り組んだことから、成果が表れた。合計特殊出生率も高水準で推移し、2018年度は2・61だ。30代、40代の子育て世代が次々に移住している。

 人口1万人の邑南町。目立った産業もないが、知恵を絞って、政策を打ち出せば、地域は踊る。「ポストコロナ」は、地方の戦略が求められている。

(ジャーナリスト 出町 譲)

 

(KyodoWeekly4月20日号から転載)

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