「言の葉の森」辞書との闘い

 改訂されたばかりの岩波国語辞典を持った私に「ちょっと見せて」と上司が言う。「なるほど、『細断』の項目を入れたんだね」

 仕事柄、部内には言葉や辞書に詳しい人がいる。自分もそうなれるよう言葉を調べるときはいくつかの辞書を見るようにするが、どうもうまくない。

 「副総裁棚上げなら、(宮沢喜一政権で『ドン』と呼ばれた)金丸信副総裁(のよう)になる。来客は副総裁室にはどんどん来るが、幹事長室は閑散とする」と関係者に漏らした―。

 2019年9月の内閣改造・党役員人事前。岸田文雄政調会長が幹事長に抜てきされれば二階俊博幹事長が副総裁になる。それをけん制する二階派側近の発言だ。

 「棚上げ」というと「問題を保留にして後回しにする」というような意味しか思いつかず、いくつか辞書を見ても「副総裁棚上げ」が何を表すのかいまいち分からない。棚上げを使うのは適当なのだろうか―。しかし上司に尋ねてみると「ああ、棚上げはこういう使い方をするよね」。指し示された新明解国語辞典には「形の上では考慮・敬意を払いながら、実際上は無視すること」と書いてある。ようやく合点がいった。

 ちなみに大辞林にも同じような記述があった。さらに全国紙の過去の記事で検索すると「会長に棚上げ」(日経新聞では27件も)を筆頭に約100件の使用例が見つかった。これまで主流だった人間を名誉職に追いやるという限定的な使われ方ではあるものの、政治や経営内部の人事抗争のしたたかさが垣間見える「通な」表現に見えてきた。

 また、こんなことも。

 「福島の漁業や水産加工業は復興の端緒についた段階で、体力が回復していない」と専門家は指摘―。

 「端緒につく」ではなく「緒につく」とすべきでは?と聞く、やや鼻息の荒い私に別の上司はこともなげに「明鏡(国語辞典)には載っているよ」と話す。確かに端緒の項目に「宇宙探査の―につく」という用例が。またも抜けがあった。

 後日見比べてみると一部では「端緒に就く→緒に就く」とする辞書もあったが、現代新国語辞典、ベネッセ表現読解国語辞典にも用例が載っていた。毎日新聞の連載小説内でも浅田次郎さん、大沢在昌さんがこの慣用句を使っており、これは無視できない。

 二つともあまり一般的な使い方ではないにしろ、まだまだ辞書を活用できていないことを実感する。「この言葉はこんな意味もあるんだよ」。将来の部下にこう話すためにももっと辞書と闘っていきたい。

(毎日新聞社 校閲センター 本間 浩之)

 

(KyodoWeekly4月6日号から転載)

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