
トロトロ石器=2月22日、三重県大台町、遺跡ツアーにて
三重県大台町には郷土資料館的なものがない。町内には旧石器時代の出張遺跡をはじめ数々の縄文時代の遺跡があるが、その2万点以上の出土品の多くは箱の中に眠っている。
貴重な遺跡の数々を皆さんに知ってほしいと、4年前から専門家の方と一緒に宮川流域の遺跡をテーマにエコツアーを実施している。
遺跡に何度も出向いたり、出土品を見たり、石器作りをしたりするうちに、だんだん縄文人の気持ちがわかってきた気がしている。
遺跡は、一級河川の宮川沿いの河岸段丘や扇状地の南向きに開けた場所に立地している。水場に近く、日当たりがよく、災害の危険性が低い場所を意識的に選んでいるのがわかる。
動物を狩り、解体し、皮をなめした矢じりやナイフ、掻器(そうき)など多種多様な石器群は必見だ。石のナイフには、わざわざ付けた刃をつぶして、片刃にしたものもあり、その器用さに恐れ入る。漁網のおもりや縄目模様が美しい土器などもある。
石器も土器も作ってみると大変難しく、縄文人たちの器用さやすごさが実感できるし、自然の豊かな恵みを利用するための努力や工夫が伝わってくる。
筆者が復元された竪穴式住居に立って周囲の環境を見渡すと、縄文生活の苦労もわかる。台風上陸や野生動物の襲撃、冬の飢えや寒さなどをしのぐ暮らしは、どんなに心細いことだったろうと想像できる。
実際に縄文人が心細さを感じたかどうかは定かではないが、その精神性をうかがい知れるかもしれない石器も出土している。
その一つがトロトロ石器と呼ばれる不思議な石器だ。宮川の上流の縄文遺跡からまとめて16点も出土した。矢じりのようだが、先が丸いので実用性はなく、青みがかった灰色と黒色が混ざったチャート製で表面が磨かれている。全国的な出土状況からみると、祭祀(さいし)に関係する石器ではないかとされている。
宮川流域の縄文人も自然の脅威を鎮め、豊穣を祈るために祭祀をしていたのかもしれない。だとすると、今も地域に残る祭祀の背景ともよく似ている。地域の人と縄文人が1万年の時を経てつながったような気がした。
エコツアーという手法は見聞きし、体験し、実感することで、いろんなことを考えさせてくれる教育的エンターテインメントでもある。資料館建設は遠い夢でも、遺跡のエコツアーなら実現可能だ。しかも遺跡の見学は畑の草が枯れる冬場が旬。夏が忙しく雪が積もらない観光地なら、閑散期のいいテーマになる。さらに遺跡は自然しかないと嘆く全国津々浦々にもある。
活用の機会が少なく、なかばお荷物と化している出土品の一部も、使い方次第では最高の地域教材であり観光資源でもある。
(NPO法人大杉谷自然学校 校長 大西 かおり)
(KyodoWeekly4月6日号から転載)