マスク行列と不都合な真実

ドラッグストアの前に張り出されたマスク販売に関する案内文=筆者撮影

 1990年代後半に駐在した英国では、停戦宣言前のアイルランド共和軍(IRA)のテロ活動が断続的に展開され、その中でも強く記憶に残った手口に、高速道路への爆弾設置通告があった。無予告で爆発させ直接的な被害をもたらすのではなく、通告によって高速道路を使用不能にさせ、物流を遅延させて経済的損失をもたらすことを目的としていた。

 3月17日時点では、都内繁華街のドラッグストアの各店舗前では、平日にもかかわらず開店2時間前に既にマスクを求める行列ができていた。各店舗への入荷数どころか、入荷の有無すら不明な中で行列が延び続けていく様子はとても異様で、冷戦時代の東側諸国の配給制度のようだ。

 3月中旬の早朝の低気温下では、待機中の活動も、文庫本を読むかスマートフォンを操作する程度に限られる。この時間を他に充当すれば、さまざまなことができるだろう。長時間待った揚げ句、入荷自体がない目に遭う可能性もある。同様の事象が全国で起きているならば、事実上の国富の流出にほかならず、結果として、IRAの手口と同様の損失をもたらしていると考える。

 かく言う筆者も、勤務中のマスク着用義務化により、やむなく行列に加わった。前2回は数人前で売り切れ、3日目にようやく購入できたが、ただ疲労感だけ残った。

 都合3日にわたる経験を通じて気付かされた事象が、先頭集団の中に形成される高齢層の“社交行列”だ。何人かで他愛もない話をする中に、他の高齢者が通り掛かり、あいさつや小話をした後に「今日はあっちに行く」「和菓子に並ぶ」と離れて行く。皆明るく、実に楽しそうだ。

 中には、3日間、いずれも箱型マスク購入を果たした複数のつわものも目にした。基礎疾患のある高齢者の重篤化傾向が伝えられる新型コロナウイルスゆえ、素人目には分からない身体の不調があるのかもしれない。しかしながら、それであっても、仕事をやりくりして行列に加わった現役世代に優先して、短期間に購入を急ぐ理由は連想し難い。

 この背景に、“私”の喪失とあまりに長い余生、の二つを思索する。経営者やフリーランスで働く比率はせいぜい1割であり、大半が“私心”を殺して組織に従う中で、“私”自体を喪失する。また、65歳の定年から100歳の寿命までは35年に及び、22歳の就職から55歳の役職定年までの33年を上回る。

 これらの結果、集団に属すること、何かをやっていることへの安心感が社交行列を生み出す。個々人は、総じて愛想が良く、各ドラッグストアの裏話やコツなどを周囲に惜し気もなく解説もする。こうした活力をより直接的に社会に還元できる受け皿が必要と考える。

(金融アドバイザー&コンサルタント 三好 悠)

 

(KyodoWeekly3月30日号から転載)

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