「漫画の森」物語のパワーを実感

 素朴な画風、ユーモラスかつ凝ったせりふ、そして建造物への並々ならぬこだわり。以上が田島列島(たじま・れっとう)作品の特徴だといえる。

 「水は海に向かって流れる」(既刊2巻/講談社)の主人公、熊沢直達(くまざわ・なおたつ)は高校進学にあたり、叔父の住むシェアハウスに居候を決める。初日に手作りの牛丼をふるまってくれた年上の同居人、榊千紗(さかき・ちさ)が気になるが、実は過去に直達の父と千紗の母が不倫のあげく駆け落ちしていたことが発覚。いたたまれないを通り越し、どこか滑稽な状況が、推定築30年超の2階建て家屋内で展開される。

 この名もなきシェアハウスが間取り図を描きだしたくなるほど魅力的。ひねりにひねったコミカルなせりふに余韻を与えるのは、土間の床面から急角度で見上げたり、暗い庭から屋内をのぞき込んだりの独特なアングルだ。直達より年長なぶん、親の不行跡(ふぎょうせき)に痛打をくらった千紗の心の内は、狭いスペースに収まった先の見えない階段に示唆されるかのようだ。

 恋愛の、身勝手で自分本位な側面に文句を言える立場があるとすれば、恋が理由で親に放り出された子どもをおいてないだろう。「下心はない、罪滅ぼしがしたい」という気持ちがすでに下心だと気づかない父親を、生ぬるく見つめる直達。「千紗も好きな人ができたらわかる」と「それを言っちゃあ…」な言葉を母親にかけられてから時間が止まった千紗。共通の屈託が互いへの好意につながってしまう人間のどうしようもなさは、ある意味希望といえるのかもしれない。

 内輪もめも空騒ぎも、もの言わぬ2階家の俯瞰(ふかん)を描いたコマでリセットされる。「不倫とは」「大人の恋愛とは」との一般論を個人的体験に引き寄せる、物語のパワーを実感できる作品だ。

 「子供はわかってあげない」(全2巻/講談社)は「水は海に向かって流れる」の約5年前に発表された。「水は―」にちらりと顔を見せる私立探偵、門司明大(もじ・あきひろ)が活躍するが、メインはその弟で高校2年の昭平(しょうへい)及び同級生の朔田美波(さくた・みなみ)。幼少時に実父と別れたきりの美波は、夏休み直前ふとしたきっかけで言葉をかわした昭平を通じ、明大に父親捜しを依頼。だがほぼ同時期、ある新興宗教関係者から明大に「運営資金を持ち逃げした教祖を捜してほしい」との仕事が入る。実は、その教祖こそ美波の実父にほかならなかった。

 一筋縄ではいかない親子関係と、細部に散りばめられたギャグの両立はここでも顕著。建物の存在感も同様で、遠近法で描かれた学校の廊下が、快活な美波の不安や決意を表現している。門司家の土間つき玄関には「水は―」のシェアハウスの面影が色濃くあり、作者の萌(も)えどころを見つけたようでうれしくなる。

 ユーモアで照れ隠しをしているが、本作は紛れもない「一夏の冒険」ものだ。一生に確実に一度だけの夏を描いた作品だ。「もじくん」「サクタさん」との、最後まで変わらない2人の呼び方はどこか切なく、恋愛感情を「暴れ馬ジョニー」にたとえた第18話はしみじみ秀逸。変わり者だが底意のない年長者たちの心根は、人生で今だけ享受できる善意の貴重さをまざまざと映し出す。

 作者の描く「笑い」は、意志に支えられた楽観かもしれない。きっとこれは夢物語ではなく、努力の物語なのだと思う。

(漫画愛好家 小岩 くぬぎ)

 

(KyodoWeekly3月23日号から転載)

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