ポスト3・11の可能性を考える 宮城・石巻からの活動報告

 東日本大震災の発生から9年が過ぎた。宮城県石巻市で、「震災前の状態に戻す」のではなく「世界で一番面白い街」を目指すという「ISHINOMAKI2・0」が活動を続けている。本誌は昨年の同じ時期にも松村さんに寄稿を依頼し、「定点観測」させていただいている。この9年を振り返り、今後の取り組みをまとめてもらった。(編集部)

 

 新型コロナウイルスの影響で各地の追悼行事が中止された3月11日を迎えた。震災から丸9年を経たことになるが、震源地に最も近い街の一つである石巻市ではこの1月にプレハブ仮設住宅からようやく最後の住人が退去したばかりであり、生活やなりわい、コミュニティー再生の道のりはまだまだ長い。

 むしろ、ここ数カ月で製造業を中心とした倒産が目立ってきているくらいである。そんな中、10年という復興期間の終了を控え、架橋や公共施設建設、堤防造成といった復興公共工事は、なんとか期間内に事業完了しようとラストスパートに入っている。

 私は震災直後、復興ボランティアとして被災地に入ってきた建築家や都市計画の専門家、広告代理店のプロデューサーといった〝ヨソモノ〟と、震災前から疲弊していた街の在り方に問題意識を持つ、地元若手経営者らと「ISHINOMAKI2・0」という団体を立ち上げ活動してきた。

 発足の志は、石巻を震災前の状態に戻すのではく、オープンでクリエーティブな街づくりのモデルをつくろう、というものであった。

 

生き方を見つめ直す

 

 バブル経済の崩壊、リーマン・ショックなどを経て、この国は東日本大震災以前より長く閉塞(へいそく)感に包まれていたが、草の根的活動を通じて日々、多くの人と出会い、さまざまな経験をさせていただくなかで、社会に一定の変革が起きてきていることを感じる。

 例えばコワーキングスペース、ゲストハウス、クラウドファンディングなど、「ソーシャル」や「シェア」「サステナビリティー(持続可能性)」といった視点を持ったサービスやビジネスモデルが世間で隆盛してきているのではないだろうか。

 それらは決して震災復興をきっかけに生じたものでも被災地独特のものでもないが、そうした動きが増え、価値観が支持を集めているというのは、3・11という未曽有の出来事を経て、多くの人が「生き方」を見つめなおしたところにも一因があると言えないだろうか。

 仮にこうした価値観を「ポスト3・11」という言葉でまとめるという試考をするに、ポスト3・11的アイデアの数々は、かつての効率追求・大量消費社会における挫折を乗り越える可能性を持つものである。

 来年震災丸10年の節目を迎えるタイミングでこのような執筆の機会をいただくに際して、ここまでのわれわれISHINOMAKI2・0の活動や、被災地石巻の出来事を振り返りながら、ポスト3・11的アイデアの可能性を検討してみたい。

2月に開催されたイベント「IRORI」博覧会の様子。市内のクリエーターがブースを出展した

次々とアイデア

 

 2011年5月にISHINOMAKI2・0を結成したわれわれは「世界で一番面白い街」を目指し、ブレインストーミングから生まれたアイデアを次々と実現に移していった。

 最初にローンチ(立ち上げ)したプロジェクトはフリーペーパー「石巻VOICE」の発行、空き店舗を手づくりで改修した「復興バー」のオープン、既成概念にとらわれない街の使い方を考えるお祭り「STAND UP WEEK」の開催で、いずれも7月23日のことである。

 石巻VOICEの第1号は11年3月に誕生したばかりのクラウドファンディングのサイトで資金を調達した。いまやそのサイト「READY FOR」は100億円を超える資金を集めるまでに成長し、共感を集め思いを具現化するクラウドファンディングというサービスも、資金調達だけでなくPRやファンづくりも担えるものとして浸透してきている。

 11年12月には、拠点として、商店街にあるガレージをわれわれ自身で改修したオープンシェアオフィス「IRORI石巻」を設けた。IRORIにはボランティアや研究者、クリエーターなど、被災地の現状に関心のあるあらゆる人が集い、そこから多くのネットワークやプロジェクトが生まれた。

 手狭になったことから16年2月には約2倍のスペースに拡張し、カフェ、イベントスペース、コワーキングスペースなどを備えた複合施設的なものとしてリニューアルオープンした。

 今年2月には、障害を持った子どもたちのアート活動団体や家具工房など、街でものづくりをしている10以上の団体にブース出展していただき、IRORI博覧会というイベントを開催したところ多くの人でにぎわった。

 石巻では震災後の最初の1年だけで延べ28万人を超えるボランティアが活動したが、震災により旅館やホテルの多くが休業していることからボランティアの宿泊場所が無いという課題があった。そこで街なかに点在する物件の空きスペースをドミトリーに改修し、オーナーに民泊を営んでもらう「復興民泊」を始め、われわれは運営をサポートした。宿泊施設の再開も進んできたことから13年に役割を終えたが、延べ3300人以上に利用していただいている。

 民泊については米国の「Airbnb(エアビーアンドビー)」の日本進出や東京オリンピックに向けたインバウンド推進と相まって、18年に法整備も行われたが、民泊やゲストハウスのような新たな宿泊形態もまたここ10年で大きく増加してきているものである。

 ISHINOMAKI2・0設立の中心メンバーの一人である真野洋介氏は著書の中で場所・地域を開拓し、コミュニティー形成に寄与する側面からゲストハウスのもつ役割について言及している(※1)。

 真野氏の分析の通り、こうした宿泊施設形態には安価に宿泊需要をさばくというだけではない、均質化・空洞化した地域においてお金で買えないさまざまな価値や関係(社会資本)を生み出す可能性を持っているといえよう。

 石巻では17年から食と音楽と現代アートの総合祭「Reborn―Art Festival」 (※2)が開催されるようになった。

 美術館やギャラリーではなく、地域住民もあまり知らないような浜辺や林の中の空き地などをサイトスペシフィックな展示空間とする手法は、その種のパイオニアである新潟の大地の芸術祭を参考にしたものである。

芸術祭の網地島会場。島民がこぞって協力した

芸術祭の桃浦地区会場。放牧養豚の試みも行い、豚肉は芸術祭のレストランで提供した

移住した若者

 

 実行委員長で音楽プロデューサーの小林武史氏が言うように、都会に残っていない不便さにこそ地方の魅力の可能性があるのであり、交通インフラがほとんどない牡鹿(おしか)半島に作品を点在させ、デコボコの道を10分近く歩かなければたどり着けない場所にレストランを設けた。合理性の対極にあるともいえる「アート」もまた、空洞化した地域に価値や関係性を生み出し得るものである。

 新しいなりわいの持ち方、働き方の形としては、「ローカルベンチャー」の推進を行っている。ローカルベンチャーとは、自分の視点を持ち、見落とされていた地域にある宝物を上手に発見して、仕事を作ること(※3)。農産品や伝統工芸のような形のあるものだけでなく、関係性やその土地の経験も地域資源になりうると私は考える。

 石巻ではボランティアをきっかけに移住した若者たちが手づくりでレストランを起業するほか、地元の人間も家具メーカーやこけしブランドを立ち上げるなど魅力的なローカルベンチャーがたくさん生まれている。

 石巻市は16年に全国10自治体で結成したローカルベンチャー推進協議会に設立自治体の一つとして参加し、われわれもISHINOMAKI2・0の理事がそれぞれ立ち上げたIT人材育成団体「イトナブ石巻」と、空き家活用などを手掛ける「巻組」などとともに「ハグクミ」というコンソーシアムを結成して石巻のローカルベンチャーを応援している。

 石巻のローカルベンチャーの中でぜひ紹介したいのが「ダルちゃん」として皆に親しまれている島田暢さんだ。島田さんは鹿児島県種子島出身。愛知県などを経て復興ボランティアをきっかけに石巻市に移住した。浜の再生プロジェクトなどに携わったのちに、狩猟家、家具作家、林業、建築業、食育家など、「1人6次産業家」として「のんき」という屋号のもと活動している。

 18年には石巻市の創業ビジネスグランプリで最優秀賞を受賞した。その魅力は愛される人柄から多くの人と構築した関係性と、なんでも自分の手で作り出すところにある。

 ダルちゃんをはじめ、石巻のローカルベンチャーは決して高い収入を得ているわけではない。しかしワーキングプア的な悲壮感は全くなく、魅力的な生き方は多くの人を引き付ける。

 このように、まだまだ多くの課題を抱える被災地ではあるが、新しい社会への可能性をけん引しうる、きらめきも放っている。10年目の年は、これまで多くの方たちによって紡がれてきたストーリーをそうした視点からしっかりと振り返り、次の時代や他の地域に生かせるようにしたいと考える。

   ×  ×  ×

 ※1 真野洋介・片岡八重子編著「まちのゲストハウス考」3章 学芸出版社2017年3月

 ※2 2016年7月にプレイベント開催。19年の第2回本祭では延べ44万人を集めた。筆者は立ち上げより事務局法人の代表を務めている。

 ※3 牧大介著「ローカルベンチャー」木楽舎2018年7月

[筆者]

一般社団法人ISHINOMAKI 2.0 代表理事

松村 豪太(まつむら・ごうた)

 

(KyodoWeekly3月23日号から転載)

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