「サブスク」利用、サザンを聴く 外出見合わせのムードの中で

 あちらは中止、こちらは自粛、公立の小中高校は臨時休校…。1月には「対岸の火事」だった新型コロナウイルスの感染は日本中に広がった。「外出見合わせ」のムードが続く中、自宅などでネットでは聴けないミュージシャンの代表格だった、サザンオールスターズを「サブスク」を利用して聴いてみませんか。

 

 専門性を欠いた場当たり的な政府の対応や、昨年秋の消費増税との「ダブルパンチ」状態となっている経済の落ち込みに不安を抱えながら、自宅待機を余儀なくされている方も数多くいらっしゃるだろう。

 ライブやコンサートを収益の柱とする音楽業界にとっても事態はきわめて深刻だ。「公演自粛」自体は苦渋の決断だとしても、その経済的損失が放置されれば、日本の音楽文化を支える中小のレコード会社や事務所、ライブハウスやホールなどが一挙に経営危機を迎えかねない。今年2月中旬に大阪市内のライブハウスが集団感染を引き起こしてしまったことも、その悪循環に拍車をかけている。

 こうした事態に際してわれわれが個人レベルでできることは限られているが、家にいながらミュージシャンを手軽に支援する方法がある。音楽サブスクリプション (定額制音楽配信) サービス、通称「サブスク」を利用して楽曲を視聴することだ。ここでは、昨年末にサブスクを解禁した、サザンオールスターズを例に挙げてみよう。

 2019年12月20日、「『あの』サザンがサブスク配信を開始した」というニュースがSNS上を駆け巡った。スウェーデンのスポティファイやアップルミュージック、LINEミュージック、AWA、動画投稿サイト「ユーチューブ」などの各種プラットフォームには900曲を超えるサザンの全楽曲と各メンバーのソロ作品が居並んでおり、ユーザーはこれらの楽曲を無制限に視聴することができる。プラットフォームごとに違いはあるが、おおむね1再生ごとに0・2~1・2円がミュージシャン側に支払われるシステムだ。

 2018~19年と、2年連続で売上高が前年比130%の伸びを見せている(日本レコード協会調べ)サブスク配信は、今や国内音楽市場の生命線となっており、減益が顕著なCDに代わって市場を持続的に押し上げている。2019年には安室奈美恵や小田和正、Perfume、嵐、さらにはサザンと同じくアミューズの大看板である星野源などが次々と配信を開始しており、ユーザー数はさらなる増加傾向にある。

 だが、国内のサブスク利用者はほとんどが30代以下であり、人口比的なボリュームゾーンである50~60代の普及率は低い。レコードやCDといったモノ所有になじんでいるこの世代がサービスを使い始める上で、サザンは絶好の入り口となるだろう。

 一昨年の大みそか、「平成最後の紅白」を共に飾ったユーミンから、およそ1年3カ月遅れてのサブスク解禁。CDから配信へ、所有からアクセスへ―サザンの決断は、ようやく構造転換を迎え始めた日本の音楽市場の「いま」を象徴する出来事のように映る。もっとも桑田佳祐当人は、2016年に発売されたシングル「ヨシ子さん」の中で「 “サブスクリプション” まるで分かんねぇ」と歌っていたりするのだが。

 思えばサザンオールスターズは、長らく「ネットで聴けないミュージシャン」の代表格だった。iTunes Store(アイチューンズストア)にてサザンのダウンロード販売が開始したのは2014年12月のことだが、これは相当に遅い部類に入る。かといってウェブ上へ非公式にアップロードされた音源や映像は即刻削除されるとあって、「コンテンツを物理的に購入する」以外に彼らの楽曲を聴き込むことは難しかった。

 むろん著作権は守られなければならない。また長年の活動によって、高単価なCDやDVDを購入するファン層を育んでいたことは言うまでもない。だがこの構造が、未来の聴取層となりうる若年層や海外リスナーたちをサザンの音楽から遠ざけてきた面も否定できない。その観点から見ても、「全楽曲を世界に向けて公式配信する」という判断は将来的に思わぬ利益を生んでいくはずだ。聴き手のいないポピュラー音楽など、存在しないも同然なのだから。

 型破りな言語感覚とあけっぴろげな大衆性でスターダムを駆け上った草創期。藤井丈司や小林武史といった俊英と共に、時代感覚を取り入れながらミリオンセラーを連発した発展期。桑田の罹患(りかん)や震災を越えてなお、国民的バンドとして君臨し続ける円熟期。彼らの音楽はいつだってそこにあった。ロック、ポップス、レゲエ、R&B、ジャズ、ディスコ、昭和歌謡…彼らの土台をなす膨大な音楽的マテリアルと、それらを「サザンの音」として瞬時に統合してしまう桑田佳祐の「声」。

 これほどユニークな存在が日本の大衆音楽のうちに生まれ、そして40年以上にわたって売れ続けているのは奇跡的であり、そして痛快な出来事だ。と同時に2010年代の彼らは、意図せぬ政治的文脈からバッシングを受けて謝罪に追われるなど、時代との「ズレ」に苦慮するような場面も見られた。これから先、CDを買ったことすらない2020年代のリスナーたちにとって、「サザン」はどのような記号となっていくのか。

 筆者のおすすめは、1982年に発表されたシングルB面曲「シャッポ(Chapeau)」。全カタログの中でも希少な「作詞作曲・サザンオールスターズ」名義の、流麗なアーバン・ソウルだ。どうしても桑田一人に関心が集まりがちなサザンだが、その名の通り「オールスター」であったことを実感する。お手持ちのスマートフォンにて、ぜひご一聴くださいませ。

[筆者]

大阪大学文学研究科・音楽学研究室在籍

加藤 賢(かとう・けん)

 

(KyodoWeekly3月16日号から転載)

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