「本の森」「絆」を築くケア技法ユマニチュード

大島 寿美子

●224ページ

●誠文堂新光社(税別1800円)

 

 認知症で反応がなかった人が笑顔になり、寝たきりだった人が起き上がる。そんな結果をもたらすというフランス発のケア・コミュニケーション技法「ユマニチュード」という名称を最近、耳にすることが増えた。

 ユマニチュードがなぜ驚きの効果を生み出せるのか。技術とそれを支える哲学を分かりやすく解説・分析し、介護や医療の現場をルポルタージュしたのが本書だ。著者の大島寿美子氏は、科学ジャーナリストであり、大学でコミュニケーションを教える研究者でもある。論理的な文章だが、自身がユマニチュードのインストラクター資格取得のために現場で経験した数々のエピソードは読者の感情に迫る。

 ユマニチュードとは「人間らしくあること、人間らしさを取り戻すこと」という意味だという。「病気で一人、ベッドにいる。痛みと汚れで惨めな思いをしていると、誰かがドアをノックして私の返事を待った。一人の男が入ってきた。私の目をじっと見つめ、側に座り、静かな温かい声でこう話した。『私はあなたをケアするために来ました。私は専門家です』」

 創始者イブ・ジネスト氏が1998年に書いた「私には夢がある」と題した文だが、これにユマニチュードの哲学がすでに著されている。「あなたのことを大切に思っています」というメッセージを相手が理解できる形で届けること。ケアをする人と受ける人との間に「人間的な関わりの喪失」が起きないよう、つながりをつくり続けること。体育学専門でケアは門外漢だったからこそ、ジネスト氏は現場で疑問を抱き、「夢」を実現させるための技術を発達させてきた。

 ユマニチュードが、人が人であるために最も重要だと考えるのは「見る」「話す」「触れる」「立つ」の四つの技術だ。

 ケアに関わる多くの人が「そんなことはやっている」と言うらしい。しかし例えば「見る」だが、フランスで行った調査では、認知症で寝たきりの患者にアイコンタクトと言える0・5秒以上の視線の投げかけをしている医師や看護師は1人もいなかった、という。

 「目を合わせる」という人間として普通のコミュニケーションをするだけで、寝たきりで反応がなかった人が、脳にスイッチが入ったように覚醒し、言葉を発するという結果につながる。ジネスト氏は、反応がないといわれていた人が、実は動ける事例を数多く体験した。

 大島氏はケアの現場での感動をこう書いている。「女性と目が合う。浮かんできたのは『生きている』という言葉。アイコンタクトのパワーを久しぶりに実感する」。回復するのを見て感動しケアをする方も達成感を覚え、互いに笑顔が増える。より「人らしい」ケアを可能にするのがユマニチュードの技術といえるかもしれない、と大島氏は言う。

 ユマニチュードの広がりによりフランスでは高齢者施設で「革命が起きている」という。高齢化が急速に進む日本で、ユマニチュードはフランスの次に関心が高く、盛んに研究されている。ユマニチュードが重要だと考えていることは、人とのコミュニケーションでは普遍的なものだ。ジネスト氏は、日本の「引きこもり」の若者の援助にも役立てるのでは、と語っている。ユマニチュードは日本でも革命を起こすかもしれない。

(ジャーナリスト 舟越 美夏)

 

(KyodoWeekly3月9日号から転載)

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