「口福の源~食料」日本食はバランス

高野豆腐は貴重なたんぱく源(提供:キッコーマン)

 冬の間に鍋を食べた方も多いのではないでしょうか。鍋料理は肉や魚、野菜、キノコなど、体が温まるだけではなく、寒さに耐えるための栄養も取れるバランス食でもあります。

 ちなみに鍋に入れる肉は何ですか? 牛肉、豚肉、鶏肉でしょうか。それとも、牡丹(ぼたん)、紅葉(もみじ)、桜、はたまた月夜(げつよ)。こう言われて分かる方はなかなかの食通かもしれません。昨今注目されているビーガンメニューではありません。

 牡丹はイノシシ肉、紅葉はシカ肉、桜は馬肉、月夜はウサギ肉を表す言葉として昔から使われてきたものです。なにか風流な感じもしますが、それだけではありません。日本における食文化史の実態が表れている表現でもあります。

 よく日本食は魚介類と野菜を主体にした料理なのでヘルシーだなどと言われますが、もともと縄文から弥生時代は狩猟採集が食を支えていました。それはまさしくジビエ料理の世界です。シカ、イノシシ、キジ、カモ、ウサギなどなど多様な獲物が食されていたのです。

 ちなみに縄文時代の遺跡から出土する動物の骨の8割がシカとイノシシだという研究があります。

 その後仏教の伝来とともに肉食の禁忌が広がりますが、「延喜式」という平安中期の法令集に書かれた正式な食事の中には、まだシカやイノシシの加工品が登場しているのです。その後、殺生禁断令などもあり肉食禁忌が厳格化してゆきます。

 しかし、それから文明開化まで約1千年もの間、日本から肉食の習慣は消えたのでしょうか。そうではありません。公家や貴族は仏教思想を重んじて肉食を控えたのかもしれません。

 一方、自給自足をするような庶民の食生活はほとんど変わらなかったのではないでしょうか。鎌倉・室町時代の遺構からも依然としてシカやイノシシの骨は出土しますし、江戸時代の料理書「料理物語」の中にも鳥獣料理が出てきます。

 仏教の教えがあるので正々堂々とは食べられないというところから、イノシシ肉を牡丹とか山鯨(やまくじら)、シカ肉を紅葉と呼ぶ慣習が形成されたのです。

 つまり、日本でも魚や野菜だけではなく、肉も普通に食べ続けられてきたのです。それでは日本食のヘルシーなイメージを損なうじゃないか、などとお叱りを受けそうですが、ポイントはバランスです。

 カロリーの観点からみると、移動の手段は徒歩、日々の糧を経る手段が農耕などの労働であり、漁でも狩猟でも自ら山野を駆ける暮らしは、さぞかし消費カロリーも高かったことでしょう。野菜主体ではとても生きてゆけないはずです。魚が取れない日もあったでしょうし、シカを捕まえ損ねる日もあったでしょう。総じてカロリーオーバーになることはなかったのでしょう。

 確かに日本は海洋国なので他の国から見ると魚をたくさん食べているように見えたのかもしれませんが、バランスよく食べる食文化だったというのが本当のところなのだと思います。

 あれを食べるとおいしい、これを食べるとヘルシーという単品思考ではなく、バランスよく食べるということを日本食から発信してゆきたいものです。

(キッコーマン 国際食文化研究センター 山下 弘太郎)

 

(KyodoWeekly3月9日号から転載)

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