応援市民制度で街づくり 富山県南砺市「関係人口」創出

 東京一極集中化は日本が直面している大きな課題だ。地域への移住・定住施策を柱とする地方創生の限界も見えてきている。こうした中、“観光以上、移住・定住未満”という概念である「関係人口」に注目が集まっている。富山県南砺(なんと)市では、いち早く「応援市民制度」という形で関係人口創出を行っている。筆者はこの制度改革に携わり、その意義についてお伝えしたい。

「応援市民制度」のワークショップの様子。さまざまな思いや意見が飛び交っている(筆者撮影)

 「応援市民制度」をご存じでしょうか。南砺市民ではないが南砺市を愛する応援市民が、南砺市が抱えるさまざまな地域課題の解決のために、スキルやパワーを提供する仕組みである。

 例えば、多くの祭りなどの伝統行事がイメージしやすいだろう。南砺市では、特に若者を想定した“担い手”が圧倒的に不足しているため、こういった場面で、担い手役として活躍するのが「応援市民」となる。

 筆者は課題の初期仮説として「応援市民のインセンティブの強化」に着目した。いくら南砺市のことを好きだとしても、高い交通費や宿泊費を払ってまでボランティアとして地域課題の解決にあたるにしては、インセンティブが弱すぎるのではないか? 当初はこんなことを感じていた。

 

大学では味わえない体験

 

 今回は、応援市民制度に関わるステークホルダー(利害関係者)の皆さんの生の声を重視することを目的とし、ヒアリングやワークショップにて情報収集や仮説検証を行った。この中で特に印象が強かった三つのエピソードを紹介する。

 南砺市利賀(とが)地区にある、合掌造りで有名な世界遺産「五箇山(ごかやま)」では、都心にある大企業の従業員が年4回のボランティア活動で毎年訪れている。このスキームを創り上げ運営し、お土産店を営んでいる方はこう話していた。

 「地域との共同作業では、ゴールを達成するよりも、その道のりの中で『誰と一緒にやるのか?』『楽しいのか?』が重要になる場合もあります」

 この言葉によって、応援市民の「インセンティブの強化が必要だ」という初期仮説を見直すきっかけとなった。

 また、応援市民の立場である富山市に住む学生からは、こんな声を聞いた。

 「何度か音楽祭の手伝いでボランティアとして参加しています。音楽好きの人たちで一つのイベントを作り上げるという普段の大学生活では味わえない経験ができました! だから、お金を払ってでも何度か参加しています」

 非日常の体験こそが、彼にとっての最大のインセンティブとなっていたのである。

 そして、南砺市の地域おこし協力隊や地元のNPOに所属し市を支える活動を行っている方々にはこんな視点があった。 「お金でお礼ができない分、ボランティアの人と一緒に働き、楽しい経験を共有することを強く意識しています。そうすると、イベントと関係のない日でも、家族や友達をつれて利賀に遊びに来てくれるようになるのです!」

 こうした応援市民制度のステークホルダーとのコミュニケーションによる仮説検証を経て、初期仮説を、関係人口にとっての最大のインセンティブは、“非日常の体験・達成感・人とのつながり”と見直した。このような思いや背景から、筆者は改革の企画を「応援市民制度2・0」と名付けた。

 

地元の誇り

 

 応援市民制度2・0の実証実験では「リーンスタートアップ」の手法を採用した。

 これは民泊仲介サイト大手「Airbnb(エアビーアンドビー)」やスマートフォンアプリによる配車サービス「Uber(ウーバー)」といった欧米のスタートアップ企業が新規ビジネスを創出する際に活用している方法論であり、早い段階から実際のユーザーを巻き込んで生の声や感想を収集し、即座に改善・修正するというサイクルを短期間で回していくことがポイントである。

 今回は、毎年夏に開催される演劇祭の運営や、空き家となっている古民家活用などをターゲットにし、結果、空き家となっている古民家活用のイベントでは、主催した地域おこし協力隊と地元の大学生が意気投合し、1年以上経(た)った今も交流が続いている。

 応援活動のため継続的に足を運んでくれる人は、そこに住む人を好きになり、その人に会うために継続的に足を運ぶ。

 好きになる源泉は、その地元市民の地元の誇り(南砺が好き)にあると感じる。これこそが単なる都会の知人・友人との差別化要素になっているのではないか。裏を返せば、地元市民の誇りがないと、ただの一過性のイベント集客で終わってしまう。

 最後に、南砺市民の声を一つ紹介したい。

 「応援を呼びかける前に“自分は何をしたいのか、何者であるか”を理解してもらえないと応援は決してされない。応援を呼びかける前に、まずは地域の人々それぞれが各自の人生の中で、なお後世につなげていきたいと思う文化に育てていかなければならない」

[筆者略歴]

富士通総研  チーフシニアコンサルタント

江波 龍一 (えなみ・りゅういち)

2001年、富士通入社。19年8月から富士通総研に出向。社会インフラを支える大規模システム構築プロジェクトのSEとしてキャリアを積む。1976年生まれ、福井県坂井市出身 

 

(KyodoWeekly3月9日号から転載)

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