2月の映画【拡大版】

 今年の米アカデミー賞では、韓国映画「パラサイト」が大きな話題を集めた。作品の魅力に加え、同賞を取り巻く変化についても解説した。(編集部)

 ★は五つ星が満点。映画製作の現場を長年取材している筆者の独断と偏見に基づき評価した。

 

米アカデミー賞の変化を象徴する「パラサイト」

 2月10日(日本時間)、第92回アカデミー賞授賞式が、米ロサンゼルスのドルビー・シアターで開催され、ポン・ジュノ監督の韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が作品、監督、脚本、国際長編映画賞(昨年までは外国語映画賞)を受賞した。英語以外、重ねてアジア映画では初の作品賞受賞となり、作品賞と国際長編映画賞の同時受賞も初という快挙だった。

 半地下の住宅で暮らす全員失業中のキム一家の長男が、IT企業を経営する裕福なパク一家の家庭教師になったことから、想像を絶する悲喜劇が展開していく、というこの映画は、確かに世界共通の格差や貧困問題を扱い、作劇も巧みではあるのだが、外国作品を積極的に表彰するカンヌ国際映画祭でのグランプリ獲得はともかく、なぜ、これほどまでにハリウッドでも受け入れられたのだろうか。

 その理由を考えると、白人偏重で「白過ぎるオスカー」と批判を浴びた第88回以降、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーが、海外の映画人を多数、会員に加えてきたことが大きく影響していると思われる。

 その数は、2019年時点で1万人近くにまで増えており、中には是枝裕和監督ら、日本人も含まれている。アカデミー賞は、会員の投票によって賞が決まるので、こうした会員たちの増加が「パラサイト」の受賞の後押しにつながったことは想像に難くない。また「パラサイト」陣営の、会員への活発なロビー活動が功を奏したとも言われている。

 ただ、そうは言ってもアカデミー賞自体が変化を求められていることも確かだ。昨年は、配信会社ネットフリックスの作品をどう扱うかが議論され、監督賞はネットフリックス作品「ローマ」のアルフォンソ・キュアロンが受賞したが、“最後の牙城”とされた作品賞は通常映画の「グリーンブック」が受賞した。

 つまり、会員の迷いと意地を反映したような結果になったのである。ところが、今回「パラサイト」が作品賞と監督賞を同時受賞したことで、アカデミー賞は、また新たな段階に達したのかもしれない、とも思えるのだ。

 とは言え、アカデミー賞はハリウッドの祭り。英国アカデミー賞では、合作ではあるが自国の映画である「1917」が大量受賞をしたように、ハリウッドの映画という意味では、かろうじてブラッド・ピットが助演男優賞を受賞した「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」あたりが作品賞や監督賞を受賞するのが筋だとも思うのだが、そう思うこと自体、もはや時代遅れなのかもしれない。

 ところで、日本人のカズ・ヒロ(旧名:辻一弘)ほかが、「スキャンダル」でメーキャップ&ヘアスタイリング賞を受賞した。この映画のシャーリーズ・セロンをはじめ、主演男優賞を獲得した「ジョーカー」のホアキン・フェニックスと「ジュディ 虹の彼方(かなた)に」のレネー・ゼルウィガー、助演賞の候補となった「アイリッシュマン」のアル・パチーノとジョー・ペシは、メーキャップやCGでかなり顔を変えている。これは演技とはまた別のものだという気もするのだが、これもまた、時代の変化故というべきものなのだろうか。

 

「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」(1月31日公開)★★★★

謎解きとユーモアを合体させた楽しさ

 舞台はニューヨーク郊外の大邸宅。世界的なミステリー作家ハーラン(クリストファー・プラマー)が、85歳の誕生日パーティーの翌朝、遺体となって発見される。容疑者は屋敷にいた家族全員と、看護師のマルタ(アナ・デ・アルマス)。そこに匿名の依頼を受けて探偵のブラン(ダニエル・クレイグ)が現れる。

 プラマー、クレイグをはじめ、クリス・エバンス、ジェイミー・リー・カーティス、マイケル・シャノン、ドン・ジョンソン、トニ・コレットといった個性的な面々が、大邸宅という閉ざされた場所で織り成すドラマ内に、謎解きとユーモアを合体させた楽しさは、アガサ・クリスティや、日本でいえば横溝正史の探偵小説を映画化した諸作を連想させるものがある。海千山千のキャストの中で、キューバ出身の若手アルマスの好演が特に光る。

 この映画の監督・脚本は、「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」を監督したライアン・ジョンソン。クレイグたちはジョンソンのオリジナル脚本にほれ込んで出演を決めたという。その脚本は、アカデミー賞の脚本賞候補になった。

 

「1917 命をかけた伝令」(2月14日公開)★★★★

ワンカットに見える映像が見どころ

 第1次世界大戦下、1917年のある日の西部戦線。イギリス軍兵士のブレイク(ディーン・チャールズ・チャップマン)とスコフィールド(ジョージ・マッケイ)に伝令の命が下る。それは、対ドイツ軍との最前線にいる自軍に攻撃作戦の中止を伝えるというものだった。

 巻頭から、いきなり緊迫感に満ちた映像が映し出され、見る者を否が応でも戦場に引きずり込む。その点は、第2次大戦を描いた「プライベート・ライアン」や「ダンケルク」のような、体験型の戦争映画と同じだ。

 ただ、この映画が特異なのは、監督のサム・メンデスいわくの「全編を通してワンカットに見える映像」を駆使し、「実際の時間軸と同じスピードで物語が進行する」ところだ。

 それ故、あくまでも2人の兵士の目線で、連続性のある、途切れない物語が生まれた。観客は2人と一体になって、緊迫感や臨場感、そして戦場の恐怖を味わうことになる。ワンカットに見える映像については、撮影のロジャー・ディーキンス(アカデミー賞受賞)の功績が大だと言えるだろう。

 

「スキャンダル」(2月21日公開)★★★

実際にあったスキャンダルを描く

 2016年、大統領選のさなかに、有力放送局FOXニュースを解雇されたカールソン(ニコール・キッドマン)が、同局のCEOエイルズ(ジョン・リスゴー)をセクハラの罪で告発する。この件に、売れっ子キャスターのケリー(シャーリーズ・セロン)は激しく動揺する。

 秘密とうそと野望と嫉妬が入り乱れるテレビ局を舞台にした映画は数多く作られているが、本作は実際にあったスキャンダルを基にしている。

 その点、脚本のチャールズ・ランドルフが「マネー・ショート 華麗なる大逆転」同様、雑多な人物が登場する実話を、フィクションや架空の人物も交えて、巧みに整理して描いている。

 また、まだ事件の記憶が生々しく、ほとんどの登場人物が健在な中で、こうした映画が現れてくることを、ハリウッドの底力の証という言い方もできるが、本作が製作された背景には、大物プロデューサー、ハーベイ・ワインスタインのセクハラ騒動の影響があることは明らかだ。だから多少感情的で、女性側の主張が強過ぎるのでは、と感じさせられるのは否めない。

(映画ライター 田中 雄二)

 

(KyodoWeekly2月24日号から転載)

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