「漫画の森」「勝ち」の意味

 「友情・努力・勝利」のスローガンが示すように、少年漫画において「勝ち」は重要な意味をもつ。いつまでも負けない主人公に引きずられ敵も強大化の一途をたどり、地球外規模に達することもある。それほど避けたい敗北をあえて描きながら、高評価を得た作品を紹介する。

 「ヒカルの碁」(全23巻、原作・ほったゆみ、漫画・小畑健/集英社)はごく普通の小学生男子がそれまで縁のなかった碁と出会い、粘り強く経験を重ね、中学卒業と同時にプロ棋士として踏み出す姿を描いた作品だ。弱冠19歳で名人となった芝野虎丸棋士が、かつて当該作のゲームに励んでいたとの報道でも話題を集めた。

 冒頭の展開は、平安時代の天才棋士が守護霊よろしく主人公に取り憑(つ)くというファンタスティックなもの。異世界の住人が乱入してきたかのようなインパクト、狩衣(かりぎぬ)姿の平安人と現代小学生が並ぶ視覚的おかしみ、主人公だけが天才の強さの源に触れる高揚感など、読者を抵抗なく囲碁の世界に誘うしかけが満載だった。ただ物語が進むにつれ、けれん味よりは飛躍の喜びと遅々として前に進まないもどかしさを丁寧に追う、正統派のつくりが目立つようになる。複数の勝負が同時進行する対局の性質をフルに生かした群像劇、勝利より敗北を細やかに描く批評的良心をエンタメに昇華したわざ、どれをとっても秀逸。記憶に残るのは、実力で主人公たちを凌駕(りょうが)する年長者がしっかり描かれていた点だ。作画担当が、年配者の描写に力を入れていたこともあり、背筋が寒くなるほどの迫力があった。

 終盤、守護霊との別れがカウントダウン的に迫るくだりの切なさは忘れがたい。離別に抗い、やがて受け入れる主人公の姿には、大人への通過儀礼が凝縮されているように見えた。

 「ハイキュー!!」(既刊41巻、古館春一/集英社)のタイトルはバレーボールの日本語表記「排球」からつけられた。162センチと小柄な主人公は、跳躍力とあふれる意欲で中学初の公式戦に挑むも、県内屈指の強豪校に完敗。再戦を誓い進学した高校バレー部で鉢合わせたのは、皮肉にもそのリベンジ対象だった。運命のいたずらでチームメートになったもと仇敵(きゅうてき)は「(下手なやつと協力するくらいなら)レシーブもトスもスパイクも全部俺一人でやれればいいのにって思います」と極言。遺恨さめやらぬ2人はうまく組んでいけるのか。

 運動部につきものの心身の苦しさをはつらつとしたユーモアが和らげる好感度の高い作品だが、ここぞという場面で主人公チームを甘やかさない厳しさにはしびれる。新入生セッターにレギュラーを譲った上級生の、メンタリティーのあり方には胸が詰まり、習得まもない技術が予想以上にあっさり壁にぶつかる場面には、主人公と一緒にぼうぜんとした。

 練習試合も含めてあまたの激闘を描きながら、試合展開が重ならない引き出しの豊富さには舌を巻く。巻を重ね、それまでの経験が1本の大河さながら集約される演出も見事。チームの危機に、苦手だったはずのレシーブを決める主人公の勇姿には(32巻)、ずっとこの展開を温めてきた作者の快哉(かいさい)が聞こえてくるようだ。

 「高校日本一」の栄誉をついに手にしないまま主人公たちは卒業、物語は最終章に突入。最後にどんなカタルシスを用意しているのか期待が高まる。練達のストーリーテリングに心配は何一つないので、楽しみに待ちたい。

(漫画愛好家 小岩 くぬぎ)

 

(KyodoWeekly2月17日号から転載)

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