★は五つ星が満点。映画製作の現場を長年取材している筆者の独断と偏見に基づき評価した。
最新技術が過去と現在を結び付けた
今回の年末年始に公開された映画では、シリーズ完結編となった「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」と、シリーズ第50作目の「男はつらいよ お帰り 寅さん」が大きな話題を呼んだ。
筆者の知人は「正月は『スター・ウォーズ~』と『寅さん』を見に行くつもりだけど、何だか40年前と同じだね」と苦笑していたが、40年前と大きく異なるのは、「~/スカイウォーカーの夜明け」の主人公はレイ(デイジー・リドリー)を中心とする若者たちであり、「~お帰り 寅さん」の主人公は寅さん(渥美清)からおいの満男(吉岡秀隆)に代わっていることだ。
そして、この2作は、フッテージ(素材映像)やアーカイブ(記録映像)を使って、亡くなったキャリー・フィッシャーや渥美清を映画の中でよみがえらせ、過去と現在をつなぐ役割を果たした点でも共通する。その意味では、この2作は映像技術の発達がもたらした贈り物だと言えるのかもしれない。
また、2016年に公開された「この世界の片隅に」に、違和感なく約30分の新規場面を付け足した別バージョン作品「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」、活動弁士を主人公にし、劇中でサイレント映画を再現した周防正行監督の「カツベン!」にも、最新の映像技術が大きく寄与している。最新技術が過去と現在を結び付けたのだ。
「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」(12月20日公開)★★★★
ルーカスの息子世代による完結編
シリーズ第1作の「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」(1977)から42年。ディズニーが「スター・ウォーズ」シリーズの創作者ジョージ・ルーカスから製作会社を買収し、新たなるサーガの始まりとした新3部作の完結編。
主人公のレイを演じたデイジー・リドリーは来日会見で「『スター・ウォーズ』の魅力や美しさは、血のつながった家族の物語でありながら、自分が誰かを選び、家族や友を作っていくという物語でもあるところ。愛や友情でつながっていく関係が、人間にとってどのぐらい大きなものであるのかを知ることが大切なのだと思う」と語っていたが、本作を見終わると、改めて彼女の言葉に納得させられるものがあった。
この新3部作に、創作者であるルーカスの考えがどの程度反映されていたのかは分からないが、監督のJ・J・エイブラムスをはじめとする、ルーカスの息子世代が、彼らなりの解釈で、ルーカスの後を継いで壮大な夢物語を完結させたのは紛れもない事実だ。もちろん、その決着のつけ方に賛否はあるだろうが、ひとまず彼らの努力と挑戦に拍手を送りたいと思う。
「男はつらいよ お帰り 寅さん」(27日公開)★★★
過去のシリーズを見るきっかけに
古くからの寅さんファンである筆者は、本作の企画を聞いたときは、「また寅さんに会える」という懐かしさと同時に、「男はつらいよ」は渥美清の存在があってこそのもの。彼亡き後で、過去の映像を見せられても…という思いがして、手放しでは喜べなかったし、一体どんな映画になるのかという不安もあった。そして実際に見てみると、過去の名場面集の域を超えていないと感じた。
ところが、今まで「男はつらいよ」シリーズを見たことがなかった人や、寅さんを知らない若い世代にも好評だと聞いていささか驚いた。筆者のようなすれたファンとは違い、彼らには寅さんがおいの満男に向かって語る何げない一言が、心に響くのだろう。確かに、本作の新撮パートの見どころは、満男が「おじさんだったらどう言うだろう」と考えながら行動していくところにあった。
そう考えると、本作は、今までこのシリーズを知らなかった人たちが、過去のシリーズを見るきっかけにもなり得る。本作の価値はそこにあるのかもしれないと思い直した。
「フォードvsフェラーリ」(1月10日公開)★★★
男たちによる骨太なドラマ
1959年、ル・マン24時間耐久レースで優勝したシェルビー(マット・デイモン)は、車のデザイナー兼セールスマンに転身する。彼のチームには優れたレーサーだがくせ者の英国人ケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)もいた。そんな中、米フォード・モーターは、シェルビーを起用して、ル・マンでイタリアのフェラーリに勝つことを企てる。
実話を基に、60年代のカーレース界の裏側を、シェルビーとマイルズの不思議な友情、マイルズの家族愛、フォードの企業論理、フェラーリへの対抗心などを軸にして描く。最近はあまり見られなくなった男たちによる骨太なドラマが展開するが、米国人は本当に車やレースが好きなんだなあと思わせる映画でもある。
「リチャード・ジュエル」(17日公開)★★★★
イーストウッド熟練の技
1996年、アトランタ五輪開催時に、爆発物を発見して多くの人命を救った英雄であるにもかかわらず、FBIやメディアに爆破テロの容疑者と見なされた警備員リチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)と弁護士のワトソン・ブライアント(サム・ロックウェル)の闘いを、実話を基に描く。クリント・イーストウッド40作目の監督作品。
ジュエルが犯人ではないことは最初から分かっているので、何を見どころとして2時間余りをもたせるのかが勝負どころとなる。その点、イーストウッドは、事の経緯を淡々と描きながら、それぞれの人物像や事件の深部に迫っていく、という正攻法で勝負している。これこそが熟練の技だと感じた。
(映画ライター 田中 雄二)
(KyodoWeekly1月27日号から転載)