「風のたより~地域経済」「流しの公務員」が奮闘

建て替えられた常滑市民病院(筆者撮影)

 財政危機の自治体を救った人物がいる。自らを「流しの公務員」と名乗る、愛知県常滑市副市長の山田朝夫である。総務官僚だったが、退職し腕一本で各地の自治体を渡り歩く。

 山田が常滑市に関わるようになったのは、2008年。常滑市は当時、財政破綻の一歩手前。予算規模200億円なのに、毎年10億円の財源不足が続く状態だった。

 赤字の大きな要因は、常滑市民病院だった。毎年7億円以上の赤字を出し続けていた。建物は築50年を超え、老朽化が進んでいた。病院スタッフも、そうした環境下で、働く意欲を欠いていた。

 存続するにしても廃止するにしても、市民病院の在り方を市民で論議する場が必要になる。山田はそう考え、100人ほどの「市民会議」を立ち上げた。自らは仕切り役となった。「市民が議論して廃止となれば、市長が責任を問われることはない。また、存続となれば、市民は自分たちが決めたのだから、病院を支えてくれるだろう」

 メンバーは、無作為で抽出した市民が中心だった。「わざわざ手を挙げて参加する市民は、そのテーマに精通して思い入れが強かったりします。そうではなく、普通の人の意見を聞きたかったのです」

 

市民が支える病院

 

 当初、多くの市民委員が「新病院建設反対」だった。常滑市の財政のお荷物である市民病院は不要という考えだ。しかし、厳しい勤務をしている医師や看護師の話を聞くうちに、会議の雰囲気は変わった。「私たちが病院を支えて行こう」の声が支配的になり、建て替えられることになった。

 病院スタッフの経営改善の努力もあり、市民病院の経営は急速に改善した。ピーク時には15億円の資金不足だったが、14年度には14億円の貯金ができた。その結果、市職員の給与カットは減額された。

 私は先日、15年に完成した常滑市民病院を訪れた。玄関に入り、見上げると、タイルを張り付けた巨大な壁画があった。市民みんなの手作りの作品だ。

 緑のエプロンをした人が目についた。彼らは市民のボランティアだ。外来患者の案内係をやったり、庭の掃除をしたり、包帯巻きの手伝いをしたりする。市民病院内にはボランティア室もある。財政再建のプロセスで、市民の間で絆も生まれた。

 山田は常滑市の財政危機について、「人災だ」と言い切る。権力者におもねる幹部や不都合を隠そうとする体質などが招いたという。こうした人災を克服するのは結局、正攻法しかないのだろう。つまり、市民に洗いざらい情報を公開し、問題点を徹底的に議論することだ。民主主義の原点ともいえる「市民会議」が全国に根付くのを願う。(敬称略)

(ジャーナリスト 出町 譲)

 

(KyodoWeekly1月27日号から転載)

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