年末年始に読みたいあれこれ テーマは反主流、反通説、反左翼

 思いつくままあれこれと本を取り上げた。特に意図はなかったが、並べてみると共通する点がある。反主流、反通説、反左翼ということだろうか。それは評者の信条でもある。ひねくれた本ばかりという評価もされるかもしれない。

 

 日本経済はいっこうにデフレ状態から抜けることができない。その理由を解き明かすのが「奇跡の経済教室」(KKベストセラーズ、中野剛志)の「基礎知識編」と「戦略編」の2冊だ。中野は経済産業省の現役官僚だが、経済政策では政府の考えと鋭く対立する。政府が進める新自由主義に異を唱え、痛快な「TPP亡国論」(集英社新書)を書いたこともある。中野によれば、経済が成長しなくなったのはデフレのせいだ。抜け出すには財政を拡大して需要を増やすことだ。だが政府は財政政策では反対のことをし続けてきた。財源は、といえば、自国通貨建ての国債は返済不能にはならないので、もっと発行し財務省主導の緊縮政策をやめることだ。公共投資をもっと増やせと中野は強調する。数年前に「富国と強兵」(東洋経済新報社)でいち早く紹介した「現代貨幣理論」(MMT)についても解説する。こういう官僚を抱える経産省も懐が深いというべきか。

 書店には、どぎつい「中国本」が並んでいる。だが多くは底が浅い。「中国はなぜ軍拡を続けるのか」(新潮選書、阿南友亮)は2年前に出たが、最近の中国本の中で群を抜いて素晴らしい。サントリー学芸賞とアジア・太平洋賞の特別賞を同時に受けた理由も分かる。阿南は中国共産党と人民解放軍との関係を鋭く分析し、中国での権力の究極の源泉は国家主席でも党総書記でもない、党中央軍事委員会の主席であることを詳しく説明する。毛沢東は死ぬまでこの地位を離さなかった。「党が銃を指揮する」と、毛沢東語録にもある。ここまで共産党を批判すると、今後の研究に支障が出るのではないか。中国には危なくて行けないだろう。本書の表題に対する答えは「共産党の特権的地位を保持するため」である。中国には共産党の軍隊はあっても国家の軍隊はないのだ。

 その共産党の神経を逆なでするのが、「中国の大プロパガンダ」(扶桑社、何清漣)だ。経済学者でジャーナリストでもある著者は約20年前、共産党批判の論文を書き、身の危険を感じて米国に脱出した。本書によると、共産党は莫大(ばくだい)な資金を使って10年前から世界的な規模で宣伝工作を始めた。外国のメディア企業の買収、西側社会の記者を招待しての工作、世界中に中国メディアの拠点の拡散に力を入れる実態を明らかにする。香港や台湾での新聞への工作のほか、米国での実態を独立した章を設けて生々しく描写する。30ページにわたる巻末の参考資料の大半はインターネットによるもので、日本のジャーナリストや学者にはこういう仕事はできないだろう。

 今年も国会での憲法論議は遅々として進まなかった。「憲法学の病」(新潮新書、篠田英朗)は、「集団的自衛権の思想史」(風行社)「ほんとうの憲法」(ちくま新書)に次いで篠田の3冊目の憲法本である。最初の本は憲法学者に遠慮しながら書いていたが、2冊目からはそれもなくなり、3冊目の本書では強烈な批判を展開する。本の帯にもあるように「問題は憲法ではない、憲法学者だ」。東京大学の憲法学の宮沢俊義、長谷部恭男、石川健治、木村草太といった面々をやり玉に挙げる。

 篠田によれば、日本国憲法は、国際社会を見ず、国際法を無視し、日本でしか通用しない憲法学の通説の独善的な解釈によって毒されてきた。憲法解釈を独占してきたのが、これら東大憲法学系の学者だ。彼らが言う通説というのが、外国では通用しないガラパゴスだと言ってはばからない。長谷部は憲法学界の頂点あたりにいる学者で、集団的自衛権は違憲だと主張する。だが「立憲主義」を駆使してその根拠を論証していないと批判する。また石川が唱えた「安倍内閣クーデター論」を俎上(そじょう)に載せ、木村が振り回す「軍事権」という概念を、ナゾナゾのような話だとやゆする。憲法学界の外にいる国際政治学者だからこそ書けた本だが、12月には「はじめての憲法」(ちくまプリマー新書)を上梓(じょうし)した。

 最後に取り上げるのは、今、ネットの世界で評判になっている「イスラム2.0」(河出新書、飯山陽)だ。最近、ロンドンで何の罪のない5人が刃物で死傷される事件が起きた。警官に射殺された男はイスラム過激派と関係があると指摘されている。なぜこのような惨劇が起きるのか。本書を読めばその答えが推測できる。

 飯山はイスラム思想の自称、場末の研究者である。バンコクに拠点を置いてSNSでイスラム社会の出来事を精力的に伝えており、評者は毎日読んでいる。彼女によれば、インターネットの普及によって、イスラム社会に地殻変動が起きている。かつては神の言葉である「コーラン」の内容は、知識を独占していた法学者の説明を通じてしか分からなかった。

 だがネットを使えば直接、知ることができるようになった。コーランには「異教徒と闘え」とか「来世こそが本当の生」と書いてあること知り、イスラム教の信者は、宗教エリートに不信感を持ち出したと飯山は指摘する。その結果、信徒たちは欧米の近代的な価値観に疑問を持ちイスラム的な価値の実現に向かう。人権や自由などの価値観は普遍的ではないと考える人たちもいるのだ。昨年出した「イスラム教の論理」(新潮新書)に続く反通説の刺激的な本だ。(敬称略)

[筆者]

書評コラム「本の森」執筆者

北風(きたかぜ)

 

(KyodoWeekly12月30日/1月6日号から転載)

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