映像化され話題となった3作品 2019年漫画界振り返る

 今年も残りわずか。この1年、編集子はあの本も読みたい、あの映画も見たい、あの落語も聞きたいと、思いながらも、その半分も実現できなかった。漫画もそうだった。コラム「漫画の森」執筆者から、「今年もさまざまな話題作が映像化された漫画界から、3作品をピックアップして紹介したい」と寄稿してもらった。(編集部)

©吾峠呼世晴/集英社

 「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」(既刊18巻、吾峠呼世晴/集英社)は今年のTVアニメ放映で一気に認知度が高まった作品だ。時は大正、剣士が異形の鬼に立ち向かう物語で、変化球作品おびただしい少年誌では今時珍しい本格派である。ここでいう「鬼」とは角の生えた巨漢ではなく、老若男女さまざまな姿形をした、肉体的能力において人間をはるかにしのぐ捕食者を意味する。残酷できらびやかな鬼たちは、もろい体でストイックに闘う剣士たちと好対照をなす。彼らとて無策ではなく、独特の「呼吸法」を用いて鬼に対抗。「水」「炎」「蟲(むし)」など流派に分かれた呼吸法は、使い手の持久力に犠牲を強いる傾向があるも、瞬発力と動体視力は飛躍的に向上する。攻撃時に技名を口にする様式美もあってたけだけしい高揚感を誘う。

 一方で本作は、防御をしくじれば落命しうるとの原則を厳然と貫く。そもそも主人公・竃門炭治郎(かまど・たんじろう)が刀をとったのは、物語冒頭で家族を殺され、1人生き残った妹を鬼にされてしまったからだ。絶望的な状況でも生きろと促す力強い非合理性と、手にしたものがあっけなく崩れる無常観が、切り絵を思わせる絵柄の中でしっくり調和している。

 話が進むにつれ、鬼になった妹をかばいつつ闘う二律背反の構造は和らぎ、主人公以外の登場人物が理不尽な世にどうあらがってきたかのエピソードが積み重なるようになった。最終章に入ってからは、1人また1人と味方が命を落とす展開に読者は悲鳴をあげている。ひいきのキャラが最後まで永らえるのか、ファンはしばらく気をもみそうだ。

 「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」(既刊16巻、赤坂アカ/集英社)は今年、TVアニメ化と実写映画化をともに経験した。学園ラブコメながら、マドンナ的存在のヒロインを男子たちが争うでもなく、凡庸な男子1人を容姿端麗な女子たちが追い回すでもない。間違いなく好意を抱きあっている男女2人が、いかに相手を追い込み告白させるかで熾烈(しれつ)な駆け引きに身を削る物語だ。 映画に誘わせるため、相合傘を達成するため、1本のメールをもらうために双方から繰り出される奸策(かんさく)はほとんどが空回り。作品ナレーションの的確なつっこみが笑いを誘う。

 特に、屈指の名家に生まれた女性側主人公、四宮(しのみや)かぐやが財力とコネクションと紛れもない才能を無駄につぎ込んで男性側主人公、白銀御行(しろがね・みゆき)を今度こそどこにも逃げ場がない、というところまで追い詰める姿は涙ぐましくもいじらしい。

 一方の御行は、富裕層の集う中高一貫校に奨学金を受けて入学した特待生との設定だ。用意周到さではかぐやに一歩譲るものの、庶民ならではの危険感知能力で「付き合ってください」と請い願う敗北の危機をかわし続ける。令嬢に一般市民の青年という古典的設定の、2010年代バージョンである。

 副題「天才たちの恋愛頭脳戦」がギャグ以外の何物でもないと思えてくる作品だけに、時折のぞく切なさの景色がひときわ映える。「告らせたい」気持ちの奥底にあるのは、愛するがゆえの孤独と恐怖なのだ。

 登場人物が正しく進級し年を重ねる物語なので、卒業までには終幕を迎えるのだろう。「なんでそっちから告白してくれないんだ」とのじれったい障壁が、ジェリコの壁よろしく崩壊するさまを見届けていきたい。

 日本を代表する漫画作品の一つに育った「進撃の巨人」(既刊30巻、諌山創/講談社)のTVアニメ放映は今年でシーズン3を数えた。言葉の通じない巨人が人を捕らえて食べあさる悪夢めいた設定に加え、真正面から描かれるショッキングな場面が作品を決定的に特徴づけた。もちろん凄惨(せいさん)だから評価が高いわけではない。登場人物が必死に生きる世界の本質が、その残酷さが、正確に伝わるから目が離せないのだ。

 いよいよラストに向けてカウントダウンに入っている印象だが、「まとめにいっている」感は全くない。三重の壁に守られた人類が、生存の可能性を探るべく壁外調査を行い、ことごとく巨人の返り討ちに遭っていた序盤の展開が懐かしく思えるほど、物語世界は変容してしまった。「駆逐してやる」が口癖だった感情的主人公エレン・イェーガーの、「壁の向こう」を知ってからの別人のような冷淡さには、心を痛めた読者もいるだろう。そのエレンは119話で今までにない絶体絶命の危機に見舞われた。そこから逆転につなげる力技を、言葉の説明ではなく絵で見せた説得力が見事。何度も見たはずの巨人出現場面が、新たな意味をもち立ち上がってくる。

 掲載誌の編集方針は定かではないが、本作品についていえば作者1人の意見が通りやすい環境なのかもしれない。読者の予想を振り切る直近数話の展開は、単独の発想からしか生まれ得ないと思える。名作や傑作となどの上品な形容がはばかられる、唯一無二の作品だ。

(漫画愛好家 小岩 くぬぎ)

 

(KyodoWeekly12月23日号から転載)

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