「音楽の森」都市の息づかい

フルートと競演する場面もあったストリートピアノ=JR甲府駅北口、8月26日(筆者撮影)

 戦国武将で知られる武田家の歴史やブドウなどの果物、ジュエリー産業、山々の景観など〝名物〟の多い甲府市の人口が、20万人割れして久しい。

 近年では、県庁所在地最少の人口というレッテルも。加えて、かつて作家太宰治が表現した「きれいに文化の、しみとおっているまち」(新樹の言葉)も、今は昔の感がある。

 そんな山梨の県都に、「文化の、しみとおっているまち」を感じさせる取り組みが、この夏あった。JR甲府駅北口でのストリートピアノである。ツイッターでの高校生の呼び掛けがきっかけとなって、8月の1カ月間、ピアノが設置され、音楽愛好者や通行人ら多くの人が弾いていった。

 「山梨の活気づけになれば。多くの人に弾いてもらいたい」―。発案者の甲府南高3年、青柳大空(そら)さんは、「山梨すみます芸人」のいしいそうたろうさん(吉本興業所属)と一緒に「ジ・エンターテイナー」で弾き初め。以来、1カ月間、県都の玄関でピアノの音が響いた。

 見ず知らずの中学生と高校生がペアで弾いた楽曲に、私自身、足を止めて聴き入ったことも。「カエルの歌」を弾いたらシールを貼るという通しのイベント(めざせ!カエル1000匹)も、老若男女の〝即興ピアニスト〟らが競って盛り上げた。

 「街がにぎわうことで、経済も活性化する。歴史や芸術、スポーツなどを絡めて、『ときめき』や『なるほど』を創出する取り組みをすることで、もっと魅力的なまちにできるのではないか」。山梨日日新聞の「支店長リレートーク」に掲載された、藤田秀幸りそな銀行甲府支店長の提言に、膝を打った。人口減少時代の地方都市の活性化のヒントになると思うからだ。

 街と人、人と人をつなぐ媒体に、ピアノが、ひいては音楽が一役買う。還暦を過ぎた私が、高校生ら若い世代と話したり、写真を撮らせてもらったりと交流ができたのも、ピアノの恩恵にほかならない。駅ピアノの音色に、気ぜわしい心がしばし潤い、盆地特有の猛暑が和らいだ気がしたのも事実だ。

 「音楽の演奏にとって大切なことは、ブレスをとることです。声楽家は肺でとるけれど、ピアニストは手首で呼吸しなければなりません」―。ショパンの言葉だという。甲州市出身の中村紘子さん(2016年死去)が最後の著書「ピアニストだって冒険する」(新潮社)で書いている。

 ブレス、つまり息つぎ、そして息づかい。ピアノや音楽が、都市の息づかいにもたらすものは少なくない。品格という文化を含めて。

(山梨日日新聞・元論説委員長 向山 文人)

 

(KyodoWeekly12月9日号から転載)

全国選抜小学生プログラミング大会
新型コロナ特集
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ