「漫画の森」読者のツボをつく娯楽作

 「いかにも」な要素が気持ちよくページをめくらせてくれる、それが娯楽作ではなかろうか。そんな2作品を紹介する。

 「群青にサイレン」(既刊10巻、桃栗みかん/集英社)はスポーツものの定番、高校野球漫画。実は作者のペンネームは「いちご100%」「りりむキッス」で知られた河下水希の別名義だ。少年誌でコケティッシュな美少女を繰り出し読者を翻弄(ほんろう)した同じペンで、汗光る少年たちを描いている。

 少人数の弱小野球部が新しい戦力を得て、目覚しい成長を見せる物語は王道だが、サブテーマはポジションをめぐる愛憎劇といっても過言ではない。主人公は「試合でストライクが入らない」症状に突如襲われ、マウンドを去った経験をもつ元速球投手。代わりをいともやすやすと務めたのは、抜群の制球力と豊富な球種を誇る彼のいとこだった。雪辱を期して臨んだ高校初の練習試合、ベンチで見つめるいとこの前で主人公の球は無情にもキャッチャーミットをそれ続ける。結果、よりによって捕手にコンバートされ、自身にトラウマを植え付けたいとことバッテリーを組むことになってしまう。

 「自分の投手」の投球姿を誇れない捕手と、知らぬ気に笑いかける投手。2人の関係性の変化は、繊細でありながら根深いコンプレックスが何かの拍子にがらりと逆転する鮮やかさもある。愛着と憎しみの境界線上ぎりぎりのかけひきを引き立てるのは2人の対照的な容姿だ。キャラの個性を表現した風貌の描き分けはさすがというしかなく、次々に紹介される他ポジションのメンバーも含めて非常に華やか。この先、あきらめたはずの投手の道をちらつかせる運命の気まぐれに、主人公が心揺れるさまが見られそうだ。

 一方「地獄楽」(既刊7巻、賀来ゆうじ/集英社)はいわゆる「抜け忍」が主人公の伝奇時代劇。冒頭から捕縛され、処刑場に引き据えられて登場するも、打ち首や火刑などでは「全然死なない」異能で役人を辟易させる。主人公の人間離れした強さを物語るとともに、「これは常識を置き去りにして読んでいい作品」との力強い主張が伝わる場面だ。

 驚異的な生命力に目をつけられた彼は、罪人集団に混じって浄土とも異界ともつかぬ離島に送られる。背後には、不老不死の仙薬を発見した1名のみ無罪放免という常軌を逸した命令があった。

 注意深い読者ならば、読み始めてまもなく奇妙な違和感を覚えることだろう。11代徳川将軍の世に、お取りつぶしとなった浅野家家臣の子どもたちが路頭をさまよっているうえ(松之廊下事件は5代将軍の元禄時代)そもそも将軍の名前が史実とは微妙に異なる。本作は江戸期の舞台設定を多彩にカスタマイズし別世界を練り上げた創作なのだ。

 秀逸なのが、実在した処刑人集団、御様御用(おためしごよう)山田浅右衛門家の展開。作中で浅エ門と表記される同家の門弟たちが、監視役としてマンツーマンで罪人たちに同行する設定だ。楽しげに描き分けられた門弟たちの個性はそれだけでエンターテインメント。罪人たちとコンビを組んでの命を賭した珍道中の要素が、物語の地平をぐっと広げる。

 娯楽剣劇の遺伝子をしっかり受け継ぐ作品だが、人物造形は現代的でしなやかだ。画風とのギャップを目いっぱい生かしグロテスクな場面をたたみかける冒険心に、読者のツボをつく女性キャラの艶っぽさ。漫画ならではの潔さが楽しめる。

(漫画愛好家 小岩 くぬぎ)

 

(KyodoWeekly11月18日号から転載)

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