牛から出る温室効果ガスを研究 環境への負担軽減目指し

 「国際農研」ってご存じですか。正式名称は、「国立研究開発法人国際農林水産業研究センター」(茨城県つくば市)。この組織の目標は「世界から貧困をなくすこと。そのために世界中に食料を行き渡らせること」などを掲げる。本稿では、開発途上地域など調査をしている研究員の活動を紹介する。4回目は、タイやベトナムで、牛から出る温室効果ガスの研究に取り組む、前田高輝さんに登場してもらった。(編集部)

 

 畜産業は、私たちの食卓には欠かせない、肉や乳などのタンパク源を生産しています。

 日本では、1960年から2013年にかけて、国民1人当たりの年間食肉(牛、豚、鶏)消費量は3・5キログラムから30キログラムにまで増えています。その一方で、主食であるコメは115キログラムから57キログラムに減っていて、私たちの食生活において、畜産業の重要性はますます高くなっています。

 ベトナムでも、この10年で牛肉消費量が倍増(年間1人当たり5~6キログラム)し、既に国内での生産が追いつかない状況になっています。17年は26万頭の牛が輸入されていて、今後も増えることが予想されるため、現地での畜産業の生産性の向上は、とても重要な課題です。

 

牛から排出されるメタン

 

 私は17年度より、タイ(コンケン大学、反芻(はんすう)家畜飼養標準研究開発センター)およびベトナム(カントー大学、南ベトナム畜産研究所)で、肉牛生産における温室効果ガス排出抑制について研究しています。

 タイやベトナムでは、牛の飼料は稲わらなどが中心です。それらは他の飼料と比べると栄養価が低いので、先進諸国と比べて、肉の生産性はあまり高くないのが現状です。この飼料に含まれる全てのエネルギーのうち、約10%程度が温室効果ガスであるメタンとして排出されることが知られています。

 牛には胃が四つあります。この中で第1胃(ルーメン)には、分解・吸収が難しい繊維質の飼料を分解してくれる微生物がたくさん住んでいます。これらの微生物たちは、いろいろな種で構成されていて、それぞれ飼料を分解する際の役割が違います。分解が最後まで進むと、「メタン生成古細菌」と呼ばれる種類の微生物が、飼料の分解によってできる二酸化炭素と水素などを使ってメタンを作ることが知られています。

 また、牛は生き物ですので、食べると必ず排せつ物が出ます。これらは主に飼料生産などの際の肥料として利用されていますが、これらが農地に還元される際には、メタンだけではなく、さらに強力な温室効果ガスである一酸化二窒素も排出されます。

 全ての温室効果ガス排出のうち、畜産業が占める割合は18%程度と見積もられています。温室効果ガスの排出に関する国際的な取り決めであるパリ協定で合意された「産業革命前と比べ、世界の平均気温の上昇を2度より十分低く保ち、1・5度に抑える努力をする」という大きな目標の達成のためには、畜産業は決して無視できない排出源です。

 このため、飼料給与や排せつ物管理の適正化などの対策を行うことにより、畜産業からの温室効果ガス排出を最小化することが求められています。

 国際農研ではこの研究テーマについて比較的長い歴史があり、1990年代に最初のメタン測定施設がタイに導入され、研究が始まっています。この中で、私はルーメン液や排せつ物にいる微生物たちが、メタンや一酸化二窒素の排出にどう関係しているのかを調べ、どのようにすれば削減できるかについて研究しています。

 東南アジアで育てられている品種の多くは、ブラーマン(アメリカ南部でつくられた暑さ・乾燥・病気に強い牛)や、ライシン牛(ベトナム在来種とRed Sindhiの交雑種)などのコブ牛(Bos indicus)で、日本にいる多くの肉牛(黒毛和種など、Bos taurus)とは別の種です。東南アジアの在来品種は一般的に体が小さく、高温多湿な環境に適応し、病気などにも強いのが特徴です。

 また、コブ肉は1頭から採れる量が少ない希少部位で、脂が多く柔らかいことで知られています。欧米の品種と比べて生産性は低いのですが、現地で容易に調達可能な稲わら主体の低質な飼料の利用性が高いことから、経営農家のほとんどである小規模な農家で多く育てられています。

 今後の東南アジアにおける畜産業は、より高い経済性、生産性を求め、大規模化、集約化が進むことが予想されます。これにより、生産性の低い在来品種の頭数は減少するかもしれません。大規模な肥育農家では、在来品種はあまり使われず、オーストラリアなどからアンガスなどの大きな品種を輸入して育てているところもあります。

 このように、今後東南アジアの畜産業において予想される規模拡大の際には、既に日本でも起きているような排せつ物管理に伴う臭気や地下水汚染、温室効果ガス排出などの環境問題を引き起こすことが多くなると考えられるため、環境への負担が少ない生産システムをつくることがとても重要です。

 

生産者からの低い関心

 

 生産者の方々にとって、温室効果ガス排出を削減しても利益を生まないため、東南アジア諸国だけではなく、日本でも関心がとても低いのが現状です。和牛生産および温室効果ガス排出抑制をテーマに、タイで開催した生産者向けのシンポジウムでは、参加した方々の関心が日本の質のよい霜降り肉の生産方法(育て方)に集中して、誰も温室効果ガスの排出抑制について議論しないといったことも起こりました。

 生産者の方々は、自分たちの生活のために牛を商品として育てているので、環境に対して関心が低いのは、ある意味仕方のないことなのかもしれません。 今後、次世代に引き継ぐ環境への悪影響も頭に入れ、目先の利益に捉われることなく、長い目で見て、持続可能な生産体系の確立に向けた技術開発を行う必要があります。

 私たちはこれからも、畜産業を含む農業が環境に与える負担をより減少させるよう、しっかりと取り組んでいきます。

[筆者略歴]

生産環境・畜産領域 主任研究員

前田 高輝(まえだ・こうき)

1980年生まれ、東北大学農学部(学士)、同大学院農学研究科(修士)、東京工業大学大学院総合理工学研究科環境理工学創造専攻(博士=理学)

 

(KyodoWeekly11月18日号から転載)

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