「風のたより~地域経済」学びを支える地域の「教育」

 先日、9年ぶりに隠岐の離島、島根県海士町(あまちょう)を訪れた。「ないものはない」を掲げ、地域にあるものを大切にし、その価値を磨き、豊かな島の暮らしを守り育む地域づくりで知られる。岩ガキ「春香」や隠岐牛などのブランドも生まれている。

 この町の「高校魅力化プロジェクト」は教育界でも名高い。町ぐるみでユニークな教育を行っており、県立隠岐島前(おきどうぜん)高校は文部科学省のSGH(スーパーグローバルハイスクール)に指定されている。「教育」というと「教え育てる」と書くが、ここでは「学び合う」「学びを支える」というほうが適切だろう。

 一人一人の高校生が、自分の学びや暮らしを創(つく)りあげる環境を、学校や地域の大人たちがサポートする体制が構築されている。町は公立塾の隠岐國(おきのくに)学習センターを整備し、進学希望者への学習の場をつくることとあわせて、自己実現に向けた夢ゼミを実施するほか、地域との関わりを通じて、地域課題に向きあい、取り組むプログラムも整えている。高校には共同生活を創る寮も整備されており、プログラムに惹(ひ)かれて全国各地から生徒が入学している。

 目を見張るのは、学びの「場」と「関係」の構築の仕方である。「塾」も「寮」も、いわゆる管理型の施設ではない。出入りしやすく、居心地のよい空間が整えられている。隠岐國学習センターは木造家屋のほっこりした建物で、空間をさまざまに活用できるような仕様となっており、生徒とコーディネーター、地域の人たちが対話し、学び合える雰囲気が醸成されている。

 高校の寮は、寮生による主体的な運営が行われており、いわゆる「管理人」に相当するハウスマスターが、そばで見守り支えている。多様な大人が高校生と関わり、彼らの学びをサポートする場と関係を、柔軟に整えている。

 世の中の価値観は多様であること、そして正解は一つではないこと、自分がどのように生きていきたいのかが問われ、自分と向き合い、地域や社会と向き合う。こんな環境で学ぶ高校生が、今興味があること、先々の目標など、これからの夢や希望を生き生きと語ってくれた。それぞれの問題、関心を育み、得意分野を育てていく学びの場に圧倒された。

 政府の第3期教育振興基本計画には、教育を通じて生涯にわたる一人一人の「可能性」と「チャンス」を最大化することを教育政策の中心に据えて取り組む、とある。

 だが、文系・理系で区分けされ、さらに偏差値で輪切りにされていく紋切り型の進路指導は、多様性を育むこととは程遠い。自分のルーツ、自分の暮らし、そして自分と社会との関わりについて考え、自分の特性を伸ばしていくための学びの場の構築。そんな環境を整える地域づくりの一端を垣間見ながら、「地域づくりは人づくり」という、ある師の言葉を思い出した。

(東洋大学教授 沼尾 波子)

 

(KyodoWeekly11月4日号から転載)

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