10月の映画

 ★は五つ星が満点。映画製作の現場を長年取材している筆者の独断と偏見に基づき評価した。

 

「エセルとアーネストふたりの物語」(9月28日公開)★★★★

平凡な日々こそがいとおしい

 「スノーマン」などで知られる英国の絵本作家レイモンド・ブリッグズが、自身の両親の人生を描いた絵本を、アニメーション映画化。1928年、牛乳配達のアーネスト(声・ジム・ブロードベント)とメイドのエセル(声・ブレンダ・ブレッシン)の結婚から、71年の彼らの死までが描かれる。2Dアニメがノスタルジックな効果を上げている。

 息子の誕生、戦中戦後の一家の生活などを淡々と描くことで、ごく普通の人々のありふれた日常が浮かび上がる。劇的な出来事はほとんどないが、実は平凡な日々こそがいとおしいと感じさせる。

 これは日本のアニメ映画「この世界の片隅に」にも通じるテーマであり、アーネストが読む新聞やラジオ(やがてテレビに変わる)、エセルとの会話で、世の中の変化を知らせるさりげなさもいい。そして、この2人のように人間は誰もが老いて死んでいく。身近な人もいつかはいなくなる。だからこそ本作は心に染みる。いい映画を見た、と実感させてくれる名編だ。

 

「ジョーカー」(10月4日公開)★★★★

負のパワーに引き付けられる

 舞台は、1970~80年代のニューヨークを思わせるゴッサムシティ。大道芸人のアーサー(ホアキン・フェニックス)が、なぜ邪悪なジョーカーになったのか…という、バットマンの宿敵誕生の物語を新たに創作した。全体的に暗く、救い難い設定や、孤独で醜悪なアーサーの姿を見ると嫌悪感すら浮かぶのに、かえって、そうした負のパワーに引き付けられ、圧倒される。

 人を笑わせたいという願望がやがて狂気に変わるアーサーの姿は、悲しみと不気味さを併せ持つピエロの本質を鋭く突く。また、道化と笑いという意味では、チャップリンの「モダン・タイムス」が映り、「スマイル」が流れるのも象徴的だ。

 ところで、過去作のジョーカーにはコミカル味や狂気が目立ったが、本作では、そこに悲しみと醜悪さがプラスされ、風変わりな役柄を得意とするホアキンの独壇場の感がある。見終わった後、感情移入しづらいキャラクターなのに、なぜ引きつけられたのか、と自問せずにはいられなくなる。

 

「ジョン・ウィックパラベラム」(4日公開)★★

ノンストップアクションに驚く

 伝説の殺し屋ジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)が、組織から追われる身となり、さまざまな刺客と壮絶な闘いを繰り広げる、というシリーズ第3作。

 「ミッション・インポッシブル」シリーズのイーサン(トム・クルーズ)も真っ青の、55歳のキアヌによるノンストップアクションには驚くばかり。すご過ぎて思わず笑ってしまう。もっとも、イーサンには大義があるが、ウィックは、己が生き残るためにひたすら相手を殺しまくるだけ。この男の生への激しい執着は一体どこから生じるのだろうと思わされるし、あまり感情移入できないところがある。

 ただ、これまでに比べると、ハル・ベリーをはじめ、ウィックを囲む脇役たちの扱い方には工夫の跡が見られた。また、バトルシーンでは、長身のバスケットボール選手との図書館での闘いは「死亡遊戯」、ガラスの部屋での対決は「燃えよドラゴン」といった具合に、ブルース・リーの影響が強いと感じた。

 

「イエスタデイ」(11日公開)★★★★

もしビートルズが存在しなかったら…

 売れないミュージシャンのジャック(ヒメーシュ・パテル)が引退を決意した夜、世界中で謎の停電が発生。その渦中で交通事故に遭った彼が目覚めると、何とビートルズが存在しない世の中になっていた。世界中で唯一ビートルズを知るジャックは、彼らの曲を歌うことで注目されるが…。

 監督ダニー・ボイル、脚本リチャード・カーティスによる何とも愉快なパラレルワールド話。大元は主人公が自分のいなかった世界を見るフランク・キャプラの「素晴らしき哉、人生!」ではないかと思った。ボイル監督が「これはビートルズへのラブレターだ」と語るように、この世に彼らがいなかったら…という大胆な発想を描くことで、逆にジャックが歌う彼らの曲が新鮮に聴こえ、改めてビートルズの素晴らしさを知らしめる効果がある。だから、エンディングに流れる“本物の”「ヘイ・ジュード」を聴くと、彼らがいてくれて本当によかったと実感させられて、ホロリとさせられるのだ。

 

「真実」(11日公開)★★★

是枝監督が撮った、フランス映画

 フランスを代表する大女優ファビアンヌ(カトリーヌ・ドヌーブ)が「真実」というタイトルの自伝を出版することに。そこに、アメリカで脚本家として活躍する娘のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)と夫のテレビ俳優ハンク(イーサン・ホーク)と娘のシャルロットがやって来る。出版祝いを口実に集まった“家族たち”の騒動の様子を、ファビアンヌの新作映画の撮影と並行して描く。

 是枝裕和監督が撮ったフランス映画。自身が「自分の中でも最も明るい方へ振ろうと考えて現場に入った」と語る通り、彼の映画にしては珍しくトーンが明るく、軽やか。いつも通りに“家族”を描いてはいるが、説教も主張も、問題提起もなく、すがすがしい印象を受けた。

 ドヌーブが、亡くなった姉で女優のフランソワーズ・ドルレアックとの関係をほうふつとさせるエピソードも含めて、「どこまでが演技でどこからが真実なのか」という女優の性(さが)を見事に体現している。それを受けたビノシュもまた見事だった。

(映画ライター 田中 雄二)

 

(KyodoWeekly10月28日号から転載)

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