「本の森」立憲主義という企て

井上 達夫著

431ページ

●東京大学出版会(税別4200円)

 

愚民観への「愛のムチ」

 

 井上は「怒れる法哲学者」と言われる。何に怒っているのか。憲法の9条問題に限れば、その対象は、いわゆる護憲派の憲法学者に対してだ。投げかける言葉は激しい。「幼児的願望思考」「道徳的無責任」「欺瞞(ぎまん)性」「詭弁(きべん)」「政治的ご都合主義」。よくこれだけ批判する言葉を考えつくという気がする。本書で「愛のムチ」だと書くが、憎悪に似たものすら感じる。井上の反発の根底にあるのは、護憲派知識人たちの、国民を小馬鹿にしたような愚民観だ。私も彼らの本を読むとそう感じる。

 本書は法律専門誌などに掲載したものに、言論実践の記録として残すため加筆は最小限にとどめ詳細な脚注をつけた。1部では立憲主義、法の支配という哲学的な考察、2部でそれを日本に適用し憲法9条を論じる。注目すべきは2部の「9条問題」だ。110ページにわたって詳細に検討する。3年半前に出した「憲法の涙」(毎日新聞出版)を読むと理解しやすい。「憲法の涙」を学術的な装いで精緻化したものといえるだろう。一部での議論の理解には、4年半前の「リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください」(毎日新聞出版)が役に立つ。

 9条に対する井上の考えはこうだ。素直に読めば9条は戦力を認めていない。だから世界で有数の軍事力を持つ自衛隊は憲法違反である。一方、戦後平和を維持できたのは、護憲派が言うように9条があったからではない。自衛隊と日米安保条約のおかげだ。従って9条1項も2項も削除し、軍隊である自衛隊を厳格に統制するための条項をつくる、というものだ。安全保障政策は憲法で固定すべきものではなく、民主的な討論で決めるべきとする。

 このような井上の持論からすると、昔からある改憲論は筋が通っている。9条とそれに反している自衛隊との矛盾を解消することを目指すからだ。

 だが自衛隊は憲法違反だとしながら、自衛隊解散や日米安保条約破棄を主張せず、積極的に何ら運動もしない多くの護憲派学者は欺瞞以外なにものでもないことになる。

 これとは別の護憲派に対しても批判する。9条は原理を示したものにすぎない。文字通りに理解すると不都合だから解釈して自衛隊は合憲とする、というものだが、こう主張する学者が政府の集団的自衛権の解釈改憲を批判する矛盾を厳しく指摘する。

 改憲論の中でも井上の9条まるごと削除論は、特異で過激な主張である。残念ながら今の日本では受け入れられそうにないが、読んでいて納得できることが多かった。法哲学の根本に立ち返り護憲派憲法学者の主張のおかしさを指摘するのは、さすがと言うしかない。(敬称略)

(北風)

 

(KyodoWeekly10月28日号から転載)

「持続可能な食と地域を考える」シンポジウム
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証
TAFISAワールドコングレス2019

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ