「本の森」「焼き場に立つ少年」は何処(どこ)へ

吉岡 栄二郎著

●143ページ

●長崎新聞社(税別1100円)

 

半世紀の眠りから覚めて

 

 2018年1月、ローマ法王フランシスコが取り上げ話題になった原爆写真がある。世界の多くの人は、これが原爆にまつわる写真だとは気が付かないかもしれない。むごたらしい惨状の写真ではないからだ。幼い弟を背負い、背筋を伸ばして真っ直ぐ何かを見つめて立つ少年。弟は不自然なほどにぐったりしている。

 写真のタイトルは「焼き場に立つ少年」(原題:CREMATIONSITE,NAGASAKI,1945)、撮影者は当時、米海兵隊第5師団に所属していたジョー・オダネル氏。従軍カメラマンとして広島や長崎などの被災状況を記録した。彼が撮影した300点のフィルムは、半世紀近くもの間、屋根裏のトランクの中で眠っていた。悲惨な記憶を思い出すまいと封印していたのだ。

 しかし、あることをきっかけに自身の撮影した真実を伝えようと決意した。原爆投下の是非を問う写真は「投下は正しかった」と考えるアメリカの人々から非難を浴びることになった。

 日本でも大きな反響を呼んだが、「焼き場に立つ少年」については、撮影場所が長崎ではないのではないかと展示を疑問視する声が上がった。誰もこの少年を知らず、場所の見当すらつかなかったからだ。

 

戦争が生み出したもの

 

 本書は、写真美術史を専門とする著者が、この写真と向き合った5年間の調査記録をまとめたものだ。客観的な視点から、オダネル氏がさまざまな媒体で語った記憶の断片と、当時の長崎を知る人たちの証言を照らし合わせていく。写りこんだ背景を手掛かりに撮影時期や地点を考察。少年の行方もたどり、実像に迫っていった。

 読者は、少年を追う旅に同伴しながら、戦争の生々しい爪痕をまざまざと見せつけられることになる。報告書のような淡々とした文体。件の写真のほかに資料はない。けれども、戦争の理不尽さがにじんでくる。戦争に巻き込まれても何もできるすべのない幼い兄弟。ほんの10歳ほどの兄の背中でぐったりしている弟は、すでに死んでいたのだ。兄は亡骸(なきがら)となった弟を背負い、間に合わせの火葬場で順番を待っていた。泣きもせず、直立不動で。

 「この一枚の写真の尊さは、写された特定の場所や人にあるのではなく、時間を超越した〝象徴的な含意〟にあると云(い)うことである」。著者は記している。一目見た時から襲いかかる得も言われぬ迫力。その力は、写真の裏側に隠れている戦争の真実を、写真そのものが物語っているからに違いない。

 ローマ法王は、この写真をカードに印刷し、配布することを指示した。裏面には「戦争が生み出したもの」との文言が添えられた。

(長崎新聞出版室 伊藤 礼子)

 

(KyodoWeekly10月21日号から転載)

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