「言の葉の森」ひとごとではない「自分ごと」

 「遠かった町政がひとごとではなく、自分ごとになった」―。このように「ひとごと」に対置される表現として「自分ごと」を使う例が増えてきています。

 とはいえ、私たち校閲センターが運営しているサイト「毎日ことば」で、「自分ごと」をどう思うかについてアンケートを行ったところ、7割の方が「使わない。おかしな言い方だと思う」と回答しました。かくいう私も反「自分ごと」派の一人。その理由は二つあります。

 一つ目を挙げる前にまず、「自分ごと」の「祖先」である「ひとごと」について触れてみます。「人の目を気にする」など「ひと」には他人という意味もあり、「ひとごと」は漢字では「他人事」「人事」と書きます。「他人事」を文字面通りに「たにんごと」と読む人が次第に増え、現在ではむしろ「ひとごと」と読む人よりも多数派になっていますが(文化庁「国語に関する世論調査」2011年度)、新聞では本来の読みである「人ごと」「ひとごと」を採用しています。(「他人事」「人事」を使わないのは、「他人」を「ひと」と読むのは表外読みであり、「人事」は「じんじ」とも読めて紛らわしいため)

 辞書を見てみても「本来は誤用」(大辞林)、「俗に『他人事』の表記にひかれて」(広辞苑)などの説明付きで「たにんごと」について記載しており、「たにんごと」は一定の「お墨付き」を得たことばになりつつあります。一方、「自分ごと」を掲載している紙の辞書は見当たりません。「たにんごと」は許容範囲でも「自分ごと」は「誤用」だろう。言うなれば「誤用から生まれた誤用表現」ではないか―。そう思えてならないことが「自分ごと」を支持できない一つ目の理由です。

 二つ目は至ってシンプル。わざわざ「自分ごと」を使わずとも、「わがこと」「自分のこと」で十分ではないでしょうか。冒頭の文のように発言として用いられている場合は直しにくいという側面もありますが、文章として使う時は他の表現で済むはずです。

 ことばは移ろいゆくもの。「たにんごと」のように「自分ごと」が市民権を得る日がいずれ訪れるかもしれません。とはいえ、今しばらくは辞書と「おかしな言い方だ」という民意を盾に、「自分ごと」に出くわしたら赤を入れていければと思います。「まあ伝わるから直さなくても…」と「ひとごと」にせずに。

(毎日新聞社 校閲センター 佐原 慶)

 

(KyodoWeekly10月7日号から転載)

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