9月の映画

 ★は五つ星が満点。映画製作の現場を長年取材している筆者の独断と偏見に基づき評価した。

 

「アス」(9月6日公開)★★★

とっぴなアイデアのホラー

 アデレード(ルピタ・ニョンゴ)は、夫(ウィンスト・デューク)と娘と息子とともに夏休みを過ごすため、幼い頃に住んでいたカリフォルニアの家を訪れる。

 だが、次々と不気味な出来事に襲われ、過去のトラウマがフラッシュバックするように。やがて、自分たちとそっくりな“私たち=アス”がやってくる。

 監督・脚本のジョーダン・ピールが、前作「ゲット・アウト」同様、今回も、ドッペルゲンガーか、はたまたもう1人の自分に体を乗っ取られるボディスナッチャーか、というとっぴなアイデアのホラーの中に、皮肉とブラックユーモアを入れ込んでいる。

 互いがそっくりな黒人家族。貧しい者が豊かな者を襲いに来る。そして血で血を洗うような闘いが繰り広げられる、という悪夢には、昔とは違った形で広がりを見せる貧富の差や、移民の問題が内包されているのだろう。ラストのどんでん返しは、なるほどそうくるか、という感じだが、勘のいい人は驚かないかもしれない。

 

「荒野の誓い」(6日公開)★★★

善悪を超越した今風の西部劇

 新作西部劇だが製作は2017年。監督はニューシネマを思わせる骨太な映画を撮るスコット・クーパー。撮影は日本人のマサノブ・タカヤナギ。

 1892年、ニューメキシコ州。インディアン戦争で名を上げた騎兵隊大尉ブロッカー(クリスチャン・ベイル)は、退役前の最後の任務として、少数の部下と一緒に、かつての宿敵で、死期が迫ったシャイアン族の族長イエロー・ホーク(ウェス・ステューディ)とその家族を、部族の所有地があるモンタナ州へ護送することになる。

 ファーストシーンでインディアン、白人、それぞれの残虐性や暴力性を見せ、善悪を超越したところで物語が展開していくことを予感させる。この辺りが今風の西部劇だ。

 また、銃の音がリアルなところも、現代における西部劇の立場を象徴しているように感じた。見どころは道中に広がる西部の風景。ブロッカーの贖罪(しょくざい)というテーマは重いが、ラストにかすかな希望の光が見え、救われる思いがする。

 

「ラスト・ムービースター」(6日公開)★★★★

バート・レイノルズの遺作

 1970年代に全盛を誇ったバート・レイノルズの遺作。本作で彼が演じているのは、自身をモデルにした映画スター役だ。かつての大スター、ヴィック・エドワーズに「国際ナッシュビル映画祭」から特別功労賞贈呈の知らせが届く。

 ところが、行ってみると、映画祭とは名ばかりの、映画マニアによる自主上映的なものだった…。

 レイノルズの経歴が、そのままエドワーズに移植され、レイノルズの過去の出演作で、2人が共演するシーンがあるなど、まさにセルフパロディーの連続。浮き沈みが激しかった映画人生という点でも、どこまでがレイノルズでどこからがエドワーズなのか…という感じになる。

 当然そこには、残酷さと優しさ、悲哀とユーモアが入り混じり、見ていて複雑な心境を抱かされるのだが、オープニングの悲しそうなエドワーズのアップが、紆余(うよ)曲折を経たラストでは実にいい笑顔に変わるところがこの映画の真骨頂だ。レイノルズにとって最高の遺作になったと思う。

 

「記憶にございません!」(13日公開)★★★

悪徳総理が普通のおじさんになったら…

 史上最低の支持率を記録した総理大臣・黒田啓介(中井貴一)。ある日、一般市民の投げた石が頭に当たり記憶喪失に陥る。側近たちは、国政の混乱を避けるために、事実を隠して黒田に公務を続けさせるが…。監督・脚本は三谷幸喜。

 悪徳総理が突然善良で素朴な普通のおじさんになったらどうなるのか、という話の骨子は、よく似た別人による一人二役物から想を得ていると思われる。

 その中でも“生まれ変わった”黒田首相に側近たちも感化されていくところ、素人が政治を行った方がいいという皮肉、本来、政治家にはこうあってほしいという願望を、一種のファンタジーとして描く手法は、善良なそっくりさんが悪徳大統領の影武者になる「デーヴ」の影響が大きいと感じた。

 三谷監督は、風刺や時事ネタは薄くして、政治そのものを喜劇の中で描いているものの、それを映画だと割り切って面白く見られるか、それとも風刺が物足りないと感じるかで、本作の評価は分かれるだろう。

 

「アイネクライネナハトムジーク」(20日公開)★★★

“出会い”の不思議を描いた群像恋愛劇

 作家・伊坂幸太郎の6章からなる連作小説を映画化。監督はインディーズ出身で、今年は「愛がなんだ」も話題となった今泉力哉。音楽は斉藤和義。全編が仙台・宮城ロケで撮られている。

 10年前と現在とを交差させながら、出会い、つながり、絆をキーワードにした複数のラブストーリーが展開する。

 10年前、仙台駅前の大型ビジョンに、日本人選手が初挑戦したボクシングの世界ヘビー級戦が映る中、偶然出会った佐藤(三浦春馬)と紗季(多部未華子)が、とりあえずストーリーの中心にいるのだが、彼らと不思議な縁でつながるさまざまな人々の姿も描かれるので、群像劇といってもいい。

 とはいえ、実は“隠れ主役”は矢本悠馬が演じた佐藤の大学時代からの親友なのかもしれないとも思える。

 張りめぐらされた伏線と名ぜりふが読みどころの伊坂の原作を、「ゴールデンスランバー」同様、鈴木謙一が見事に映画用に整理して脚色。今泉監督の確かな演出と相まって、見ていて気持ちのいい映画に仕上がっている。

(映画ライター 田中 雄二)

 

(KyodoWeekly9月23日号から転載)

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