「風のたより~地域経済」ソサエティー5・0と地方経済

 先日、デジタル技術を使って経済発展と社会課題の解決をつなげる「ソサエティー5・0」社会における過疎地域の可能性について、総務省移動通信課のお話を伺う機会があった。

 過疎地域の担い手不足に対し、自動運転での移送、農林業におけるドローンや人工知能(AI)を活用した遠隔管理、無医村での遠隔診療や手術、無人店舗での販売と決済システムなど、人口減少時代の担い手不足といった地域課題克服に対するさまざまな可能性が紹介された。第5世代(5G)移動通信システムの導入により、大量の情報が瞬時に遅延なく届けられる環境が整うことで、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化などの課題が克服されると説明される。

 「モノのインターネット(IoT)」とビッグデータの活用を通じてさまざまな情報がデータ化され、それらを解析することで新たな付加価値が生みだされ、AIやロボットで人間に代わる労働や作業が、効率的に行われることも期待されている。

 確かに、イノベーションを通じて単純に利便性・快適性が増すということにとどまらず、異なる立場や環境にある人々が時空の制約を超えてつながることで、相互理解が深まるとすれば、すばらしいことである。

 だが問題は、これらの技術をそれぞれの地域でどのように使いこなすのか、情報通信環境というインフラのコストを誰が負担するのか、という点であろう。

 過疎地域における農林漁業の展開や、森林や水源の保全、そしてそこでの暮らしは、長年培われた経験と工夫のなかから育まれてきた。

 その一部をAIやロボットが代替することはあっても、地域の資源や風土・文化を育み、クリエーションを生む存在はやはり人間である。豊かな四季、時には過酷な災害をもたらす自然環境と向き合い、実りを受ける。その暮らしに、新たな技術をどう活用するか。地域で暮らす人々による戦略が必要だろう。

 島根県江津市では、地域の資源や文化、風土を生かしながら少量多品目の商品を生産する起業家を次々に呼び込み、高度人材による起業家・生活者のプラットフォームを創出している。彼らは、地域に昔からある瓦や陶器づくりの技術、大工の技術、農業技術などにも目を向けつつ、そこから新たな産業と豊かな暮らしの風景をデザインしている。その中で、情報通信技術とローテク技術を組み合わせつつ、地域資源の量に見合った規模ながらも、魅力的な商品づくりと、それを融合したライフスタイルの構築に向けて取り組んでいる。

 ローカルな「産業クラスター」構築に向け、新たな取り組みを推進する江津市の例を見ていると、情報通信技術を使いこなす戦略と、そのための人的ネットワークが必要であると感じる。

 政府の第5期科学技術基本計画では、「ICT(情報通信技術)の進化等により、社会・経済の構造が日々大きく変化する『大変革時代』が到来」する第4次産業革命が掲げられ、持続可能な成長と地域社会の自立的発展の政策課題がうたわれている。情報通信インフラをある種の公共財として廉価で利用できる環境を整えることも、地域経済にとって必要となるだろう。

(東洋大学教授 沼尾 波子)

 

(KyodoWeekly9月23日号から転載)

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