「落語の森」番頭さん

 「番頭さんッ」と旦那が呼ぶシーンから始まる噺(はなし)がいくつかある。大概の番頭さんは、旦那に従順で働き者で、と相場は決まっているが、そうでない番頭さんもいる。

 その最たるものが「百年目」に登場の治兵衛さん。実直で口やかましく、堅物と見られていたが実像は…。この噺、大ネタ中の大ネタで三遊亭圓生師、古今亭志ん朝師が、それぞれ見事な高座を見せてくれたが、やはり上方の人間国宝・桂米朝師にとどめを刺すと思う。噺の中の旦那と米朝師が完全に一致して、落語を聴いているとは思えない。米朝師に小言を食っているような気にさえなる。

 良い噺だ、経営者・リーダーとは、こうあるべき、と笑いながら、素直に思わせてくれる。ただ、サゲがだんだん分かりにくくなってきてはいるのか。野暮(やぼ)を承知で説明すれば、仇(かたき)討ちの際の「ここで会ったが百年目!」が下敷きになっている。治兵衛さんの憔悴(しょうすい)・困惑・狼狽(ろうばい)が見ものだ。

 しんみりと聴かせてくれるのが「火事息子」。圓生師、先代(八代目)林家正蔵師のお二人が良かった。「火事と喧嘩(けんか)は、江戸の華(はな)」の火事の晩に火消し姿で帰ってきた息子を迎える父母。蔵に火が入らぬよう練り土で目塗りをする、番頭のあわてぶりが笑える。最後は、涙の再会へ。

 とんでもない番頭さんといえば「引っ越しの夢」、上方では「口入屋」。これも圓生師、米朝師、そして枝雀師。こうしてみると圓生師、米朝師のお二人、守備範囲も広いがクオリティーも高いことを今更ながら思い知らされる。女中さんの部屋に夜這(よば)いをかける奉公人たちの先頭に立つ、番頭の真夜中の奮闘! 暗闇の中の仕草(ジェスチャー)が楽しい。

 「猿後家(さるごけ)」は元は上方噺。中学生の頃によく聴いた先代(三代目)林家染丸師が苦手だった。オーバーで必要以上に顔を歪めたり、奇声を発したり。上方だと先代(五代目)桂文枝師、東京では柳家小三治師、立川志の輔師、林家彦いち師らがおのおのサゲに工夫を凝らして聴かせてくれる。

 「帯久(おびきゅう)」、この番頭さんは、武兵衛さん。いつだったか、志の輔師で聴いた。笑わせ、そしてシンミリと、見事なものだったと記憶している。これもかつては、圓生師のものだった。今、お弟子さんの圓窓師が手掛けている。

 「ちきり伊勢屋」という長い噺、この場合の番頭さんは、藤兵衛さん。長いので上下に分けて正蔵師やお弟子さん・先代(二代目)橘家文蔵師が演(や)った。

 この文蔵師に二つ目の勢蔵時代有名な話がある。名人圓生師が「勢蔵さん、あァたの『竹の水仙』をあたしに教えていただきたい、お礼に『三井の大黒』をお教えしますよ」。ビックリしながらも教えたら圓生師「てへっ、失礼ながら、あァたよりうまく演りますよ」。勢蔵師「あれはねえだろ!」とあとでぼやいたという。今は正蔵師のお弟子さん・正雀師、そして柳家だが、さん喬師が演る。

紫紺亭 圓夢(しこんてい・えんむ)

 

(KyodoWeekly9月16日号から転載)

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